2016.6.26 悲惨な状況だが、妙な明るさがある 【ペコロスの母に会いに行く】
ペコロスの母に会いに行く 【通常版】 [ 岩松了 ]
■ヒトコト感想
玉ねぎ「ペコロス」のようなハゲ頭をもつ男。母親が認知症となり、施設へ入れることになる。認知症というと暗く悲しいイメージがある。本作では全体的にユーモアにあふれている。ハゲオヤジということをあちこちでネタとして使い、同じような立場の男でしっかりとカツラを被った男との面白おかしい交流まである。
認知症の母親を中心として、母親・みつえの子供のころを描き、そして結婚しペコロスが生まれ夫との関係や親友を思い出す。過去の描写が妙に悲しくなる。時代の影響だろうが、かなり不幸な境遇であってもたくましく生きている。認知症の母親を悲観的にとらえるのではなく、明るく前向きな気分にさせてくれる良作だ。
■ストーリー
長崎で生まれ育った団塊世代のサラリーマン・ゆういちは、ちいさな玉ねぎ「ペコロス」のようなハゲ頭を光らせながら、漫画を描いたり、音楽活動をしている。男やめものゆういちは、夫の死を契機にゆっくりと認知症を発症しはじめた母・みつえの面倒を見ていたが、やがて、症状が進行し迷子になったり、汚れたままの下着をタンスにしまったりするようになった彼女を、断腸の思いで介護施設に預けることになる。
苦労した少女時代や、幼なじみとの辛い別れ、神経症だった亡夫との生活といった過去へと意識がさかのぼることの増えたみつえ。その姿を見守る日々のなかで、ゆういちの胸には、ある思いが去来する―。
■感想
母親が認知症となり汚れた下着をタンスに隠しもつようになる。妻に離婚され息子と母親の三人暮らしのペコロスにとっては、それは絶望的な状況だろう。何かをすぐに忘れがちになり、徘徊まで始めると手に負えなくなる。
認知症の身内を抱えるとなると、様々な問題から仕事に支障をきたしてくる。本作ではそんな状況でありながら、妙な明るさがある。それは、主人公のペコロスがハゲ頭で面白風貌であり、会社ではダメ社員として面白おかしく描かれているからだ。
ペコロスは会社員、マンガ家、ミュージシャンと三つの顔をもっている。どれもがパッとしないのだが…。母親を施設に入れる後ろめたさや、同じような境遇の男と知り合いとなり、勇気をもらう場面など、認知症というだけでお先真っ暗というわけではない。
母親・みつえがたまに息子の顔を忘れるが、ハゲ頭を見ると思いだす。そして、少女時代の苦労や回想が始まる。この過去の回想が強烈なインパクトがある。夫との出会いや、幼馴染との別れ。そして、女人街で幼馴染と再会する。複雑な過去がわかりやすく描かれている。
現在の認知症の状態と過去の対比がすばらしい。息子のペコロスからしても、母親が過去を思い出すことに協力しているようだ。今では考えられないような辛く厳しい時代を生き抜き、結婚したとしても、夫の酒癖の悪さなどで苦労する。
まさに昭和の女の苦労という感じだ。シリアスな場面が続いたかと思うと、現代に場面がうつり、そこでペコロス絡みの面白場面へと続く。このメリハリも良い。親が認知症になるという苦労を感じさせない全体の雰囲気が良い。
あからさまなお涙頂だいモノではないのも好感がもてる。
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