往復書簡 湊かなえ


 2015.1.13      手紙から感じる真実 【往復書簡】

                     


■ヒトコト感想

手紙のやりとりを続けることで、明かされる真実がある。最初は何気ない近況報告から始まり、そこから徐々に事件が明らかとなる。事件の真相は手紙のやりとりで徐々に見えてくる。ただ、真実が判明する過程に仕掛けがある。衝撃的な真実が手紙によって暴露されたかと思いきや、実は別の真実が隠されている。手紙のやりとりを続けるにつれ、新たな真実がわき出てくる。

読者からすると、最初の驚きから、さらにすべてを覆すような真実に驚かされる。パターン化された流れなので、後半の作品ではある程度先が想像できてしまう。それでも、ひとつの事件のとらえ方が人によって大きく変わることを印象付ける作品ばかりだ。ミステリー的な驚きは少ないが、手紙のやりとり独自の仕掛けが良い。

■ストーリー

高校教師の敦史は、小学校時代の恩師の依頼で、彼女のかつての教え子六人に会いに行く。六人と先生は二十年前の不幸な事故で繋がっていた。それぞれの空白を手紙で報告する敦史だったが、六人目となかなか会う事ができない(「二十年後の宿題」)。過去の「事件」の真相が、手紙のやりとりで明かされる。感動と驚きに満ちた、書簡形式の連作ミステリ。

■感想
「十年後の卒業文集」は、学生時代の友達同士が結婚する披露宴に出席した者の疑問から始まる手紙のやりとりだ。うまいのは、学生時代にカップルだった者たちが、その後離れ離れになり、近況が不明となった者を探るという部分だ。

過去にちょっとした事故があり、それをきっかけとして行方が分からなくなった女友達がいた。彼女はどこへいったのか、事故は本当に事故だったのか。友達の一人が真実を追求する手紙をだす。読者たちは、同じく真実を探るのだが、ラストに大きなどんでん返しがまっている。手紙という媒体をうまく使った仕掛けだ。

「二十年後の宿題」は、六人の教え子たちと共にある事故を経験した教師の悩みを解決するために始まった手紙のやりとりだ。事故の真相を探るため、六人に対して順に話を聞いていき、その結果を手紙として教師へ送る。事件の真相が明らかになる過程で二転三転ある。

事故の要因や隠された真実など、手紙により小出しにされる真実で事故の輪郭がはっきりとしてくる。複雑な事故ではないが、六人の子供たちがそれぞれ、立場により印象が大きく変わるのがポイントなのだろう。まるで「藪の中」のような作品だ。

3つの中編からなる本作。最後の作品では、手紙のやりとりにより真実が二転三転するという、前二編とほぼ同じ流れとなる。最初は新鮮だったが、読み続けると慣れとマンネリ感をおぼえてしまう。手紙の中ではどのように取り繕うこともできる。

真実ではないことを手紙に書こうとなんら問題はない。あとから別の衝撃的真実を付け加えれば、物語として成立するからだ。ひとつの事件に対して証拠は出尽くしたかと思いきや実は…。なんてことが多々あると、それまでの手紙はなんだったのか?と思わずにはいられない。

手紙のやりとりの形は、最初は新鮮だが3編目まで読むと飽きてしまう可能性がある。



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