2017.2.25 脳死の娘を刺し殺したら罪になる? 【人魚の眠る家】
評価:3
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■ヒトコト感想
娘がプールで溺れ脳死状態となる。脳死について問題提起している作品だ。娘が脳死したからといって、すぐに体を切り刻まれ、臓器を他の子供に提供するという決断をできる親は少ないだろう。人工呼吸器を付けられているとはいえ、見た目は寝ているのと同じ。本作では娘が死んだと思えない母親が、あらゆる手段を用いて娘が目覚めるのを待ち続ける物語だ。
途中、父親や周りから、自己満足だと責められる場面がある。そこで母親がとった手段が、作者の言いたいことなのだろう。脳死状態で数年生きていた娘の心臓を刺したとしたら、それは罪になるのか。いつの時点で死と判断するのか。死体の心臓にナイフを刺したとしたら、それは死体損壊でしかない。誰にも判断できない難しい問題を作者は物語として描いている。
■ストーリー
娘の小学校受験が終わったら離婚する。そう約束した仮面夫婦の二人。彼等に悲報が届いたのは、面接試験の予行演習の直前だった。娘がプールで溺れた―。病院に駆けつけた二人を待っていたのは残酷な現実。そして医師からは、思いもよらない選択を迫られる。過酷な運命に苦悩する母親。その愛と狂気は成就するのか―。
■感想
目の前には、呼吸はしているが決して目覚めることのない娘がいた。母親としてはすぐさま脳死判定のチェックを行い、臓器を取り出されることは、辛いことこの上ない。現在の脳死の判定の在り方について作者の考え方が色濃くでている作品だ。
脳死状態だとしても、テクノロジーの力を使い、自動で肺を上下させ人工呼吸器なしで呼吸させる。さらには、脊髄に電気的な刺激を与え、手足を動かし筋肉を鍛える。そしてだんだんと普通の子供と同じように血色がよくなり、発汗までする。ここまでくるとサイボーグに近い。
作中では母親はいつか必ず娘が目を覚ますと信じている。対して周りは懐疑的で、すでに母親の自己満足という見方が強い。離婚寸前の夫と寄りを戻すのは、娘の状態を維持する莫大な費用が必要なためと、夫の協力により最新テクノロジーを使った治療ができていることがある。
すでに死んでいるはずの娘を無駄に生きながられることに意味があるのか。作中では心臓に持病をもち、心臓移植費用を募金で集める組織の話もでてくる。ここで、自己満足が良いのか、それとも臓器移植すべきなのかの対比がなされている。
物語は異常な心理となった母親と周囲の軋轢が激しくなるところで、ひとつの転換期を迎える。そこから、皆が和解し考え方を共有し…。このパターンであれば、最後の最後に母親の強い思いが神様に通じ、娘は奇跡的に目を覚ます…。
なんてことを想像してしまう。結局のところ、脳死というのは非常にあいまいで、まだ解明できていない脳の秘密があるのかもしれない。それを考えると、例え今脳波がなくとも、これから先もしかしたら…。という気持ちをもつのは親としては当然かもしれない。
親であれば感情移入し、自分だったらどうするかを問われる作品だ。
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