向田理髪店 奥田英朗


 2016.11.7      財政破たんした街の悲喜こもごも 【向田理髪店】

                     

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■ヒトコト感想
北海道の過疎町での悲喜こもごもが描かれている。ひっそりと理髪店を営業する向田が、過疎の村の将来を嘆いている。息子が町おこしと理髪店の跡を継ぐために帰ってきた。普通ならば親として跡取りができたと喜ぶところが、息子の将来を心配する。様々な町おこしや、過疎の村に東京から戻ってきた水商売の女など、過疎の町だけにちょっとした変化で町自体が大きく騒ぎ出す。

優秀な子供が東京で事件を起こす。過疎の町では、男の家族は針のむしろ状態となる。田舎独特の雰囲気が強烈にただよってくる作品だ。物語に明確なオチがあるわけではないが、滅びゆく町で様々な人々がなんとかしようとあがく様は面白い。イメージ的には夕張市を想像して読んでしまった。

■ストーリー
次々起こるから騒ぎ。過疎の町は、一歩入れば案外にぎやか。北海道の寂れてしまった炭鉱町。息子の将来のこと。年老いた親のこと──。通りにひと気はないけれど、中ではみんな、侃々諤々。心配性の理髪店主人の住む北の町で起こる出来事は、他人事ではありません。可笑しくて身にしみて心がほぐれる物語。

■感想
過疎の町に巻き起こる騒動を描いた短編集。北海道の過疎の町で財政破たんしたとなると、どうしても夕張市をイメージしてしまう。作中には映画祭を開催したがうまくいかず、箱モノを作ったとしても赤字を垂れ流すだけという記述がある。

過疎の町で理髪店を営む男が、息子が跡を継ぐと帰ってきても素直に喜べない。全編とおして、町に若い人に住んでもらいたいが、自分の子供たちは都会で暮らしてほしい、という思いに溢れている。そんなもんなのか、と驚かずにはいられない。

町中はすべて知り合いのような関係性があり、出戻りがあればすぐさま話題となる。都会から離婚して戻ってきた女が開いたスナックがすぐさま話題となる。そこでいい年した男たちが40代で若いと感じるママがいるスナックに入り浸る。

となると、妻たちは良い気分ではない。夫が同級生の女に熱を上げている。ただ、そこは同じ町内ということで、不倫は絶対にありえないらしい。田舎町独特の、ちょっと変化があると、途端にそこに群がる部分が描かれている。都会の暮らしに慣れている人にとっては、地獄のような場所かもしれない。

子供が都会で大事件を起すと、町に残った親は針のむしろとなる。詐欺事件を起した子供の親は、田舎町には似つかわしくないテレビカメラに囲まれることになる。田舎であればすぐさま誰の息子だというのは、あっという間に広まってしまう。が、本作の素晴らしいところは、悲劇的な物語だけで終わらないところだ。

逃亡中の息子が出てくると、罪を償えと言う。そして、そのあとは町で暮らせば良いと言う。都会であれば、犯罪者というのを隠しながら怯えて生活するが、田舎町では誰もが知っているので、隠す必要がない。まさにすばらしい発想の転換だ。

特別なオチがあるわけではないが、ついつい先が気になって読んでしまう。



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