ムーンナイト・ダイバー 天童荒太


 2016.7.3      家や電柱が眠る海の底へ 【ムーンナイト・ダイバー】

                     
ムーンナイト・ダイバー [ 天童荒太 ]
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■ヒトコト感想
東日本大震災で海の底へ沈んだがれきの中から、遺品を探し出すため非合法で潜り続ける男・舟作。放射能汚染の危険がある海へあえて潜る、危険な任務をこなす。震災で身内を失い、その死体や遺品すら手にすることができない人たちを救う。ダイビングと言えば南の島をイメージしてしまうが、津波に飲み込まれた家や電柱が眠る海の底に潜るのはかなり危険だろう。

それも非合法のため、月がでる夜しかできないとなると…。震災からすでに5年もたてば、直接的な被害を受けていない人にとっては忘れかけたことかもしれない。が、冷静に考えると津波に飲み込まれた物がまだ海の底に眠っているとなると、衝撃を受けざる得ない。忘れかけたことを思い出させてくれる作品だ。

■ストーリー

だからこそ潜るのだ。誰も潜らないから、誰かが潜らなければいけないのだと信じる。3・11から五年目となるフクシマ。非合法のダイバーは人と町をさらった立入禁止の海に潜降する。慟哭の夜から圧倒的救済の光さす海へ。鎮魂と生への祈りをこめた著者の新たな代表作誕生。

■感想
立ち入り禁止区域に指定されたが、そこには今も津波に飲み込まれた家や遺体が存在する。震災で被害にあった人たちの中で、行方不明のまま死亡扱いにされた人はどの程度いるのだろうか。本作では大事な人を亡くした人が、思い出の品をひとつでもよいから海の底から引き揚げてほしいという強い思いを感じずにはいられない。

非合法で海に潜り遺品を引き上げる舟作。危険が伴う仕事のため、手当は大きい。そして、リスクもある。が、同じく身内を亡くした舟作だからこそ、力になろうとするのはよくわかる。

会員制で高額な費用を払えば、舟作が引き上げた品物を確認することができる。身内の形見や思い出をひとつでも手に入れたいと考える人たちの、藁にもすがる思いが伝わってくる。広大な海の底で、見つかるかもわからないことに大金をかける。ある意味宝探し的なバクチなのだろう。

何かにすがりたいという思いがそうさせるのか。舟作たちは他人に誤解されることを恐れ、一見して高価な価値がると思われるものは、見つけたとしても決して引き上げない。徹底した管理が非合法の行為に高い志を生んでいる。

震災で行方不明となった人に対して、周りはどう考えるのか。普通に考えれば死んだと思うだろう。ただ、死体がでていないだとか大事な物が見つかっていないとわかると、どこかで生きているのでは?なんていう甘い期待をしているのだろう。

死を認めたくない心と、死を認めて気持ちが楽になりたいと思う心。相反する気持ちの葛藤が本作から伝わってきた。すでに5年が過ぎたこともあり、直接的な被害を受けていない人にとっては、過去のこととなりつつある。

忘れかけた衝撃をまた思い出してしまった。



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