御手洗潔の追憶 島田荘司


 2016.9.30      ファンにはたまらない外伝短編集 【御手洗潔の追憶】

                     

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■ヒトコト感想
御手洗潔ファンにはたまらない作品だろう。御手洗と石岡の二人に関わる様々な人物に関する短編が描かれている。特に印象深いのは、御手洗の父親の物語だ。日本が太平洋戦争へと突入する直前、どのようにして日本は戦争を回避すべきかを外務省職員として御手洗の父が奔走する。日本が後戻りできない闇へと突き進む過程がリアルに描かれている。

その他にも石岡をインタビューしたというていの作品や、御手洗が海外でどのような生活をしているかなど、ファンにはたまらない外伝的な作品となっている。オマケとして、御手洗が関わりまだ小説化されていない事件の話まで登場してくる。世界観が出来上がっている作品なだけに、オマケ的要素は非常に興味深い。

■ストーリー
海外へと旅立った御手洗。彼は今、どこに――。ちょっとヘルシンキへ行くので留守を頼む――。そんな置き手紙を残し、御手洗潔は日本を去った。石岡和己を横浜の馬車道に残して。その後、彼は何を考え、どこで暮らし、どんな事件に遭遇していたのか。ロスでのインタビュー。スウェーデンで出会った謎。明かされる出生の秘密と、父の物語。活躍の場を世界へと広げた御手洗の足跡を辿り、追憶の中の名探偵に触れる、番外作品集。

■感想
海外へ旅立ち、石岡と連絡を絶った御手洗。御手洗がどのような生活をし、何を考えているのか。御手洗潔シリーズの外伝的短編がつまっている。石岡に対するロングインタビューなどは、石岡単品でもキャラクターとして成立している証拠だろう。

御手洗だけでなく石岡をメインとした謎本が発売され、その中に収録されていた作品のようだ。御手洗に関連する人々へのインタビューがメインとなっており、シリーズを読み続けている人ならば懐かしい名前が多数登場してくる。レオナだとか里美なんてのは、コアなファンしか思い出せないだろう。

本作で最も印象に残っているのは「天使の名前」だ。御手洗潔の出生の秘密にかかわることが描かれている。が、それよりも御手洗の父が外務省職員として太平洋戦争へと突入しようとする日本を、どうにか戦争を回避させようと奮闘する姿が強烈に印象に残っている。

戦争が始まった場合をシミュレーションし、どのような流れになろうと日本がジリ貧になるのはわかっていた。それでも、上層部の意向で戦争は回避できない。中途半端な状態で中国から撤退できないというのが、日本を戦争へと突き進ませた要因なのだろう。

シリーズはかなり長期間続いているのでコアなファンも多いのだろう。一部はドラマ化されているようだが…。すでにファンによりパロディ小説がネット上に多数制作されており、作中でもそのあたりに触れられている。

パロディ小説の一部を実際に作品として出版してしまうくらいなので、作者的にはそのあたりに理解がある方なのだろう。なかなか新作がでないということが、よりファンたちの渇望感を高めている。ミステリーのトリック的な新しさよりも、すでに確立されたキャラクターにより人気が保証された作品だということだ。

ファンにはたまらない短編集だ。



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