MIST 池井戸潤


 2015.9.12      連続する第二第三の殺人 【MIST】

                     
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■ヒトコト感想

山奥の田舎町でひとりの経営者の遺体が発見された。自殺か他殺か?スクープを狙いにきた記者や関係者が次々と殺されていく。物語の流れは典型的な連続殺人事件のミステリーだ。過去の事件と関連があり、犯人が誰なのかは最後の最後までわからない。

中盤以降には、読者の中でひとりの容疑者が浮かび上がり、作者もその容疑者が真犯人のような流れを描く。が、別の真犯人が用意されている。定番的流れであることは間違いない。ただ、真犯人が判明したとしても特別な衝撃はない。作者が得意な銀行の融資に絡む話も登場し、ネット上の自殺サイトともからめ、謎は深まるばかり。ラストの展開にもう少し驚きがあれば言うことなしだ。

■ストーリー

標高五百メートル、のどかで風光明媚な高原の町・紫野で、一人の経営者が遺体となって発見された。自殺か、他殺か。難航する捜査を嘲笑うように、第二、第三の事件が続けざまに起きる。その遺体はみな、鋭く喉を掻き切られ、殺人犯の存在を雄弁に物語っていた。“霧”のようにつかめぬ犯人に、紫野でただ一人の警察官・上松五郎が挑む。東京の事件との奇妙な符合に気づく五郎。そして見えてきた驚くべき真相とは―。

■感想
自殺か他殺か不明の経営者の遺体が発見される。そして、第二第三の殺人事件も起こる。共通するのは鋭く喉を掻き切られているということだ。様々な登場人物の一人称で語られる本作。メインは田舎暮らしになじみ始めた刑事だろう。

刑事がほのかに恋心を抱く女教師や、スーパー経営に息づまる経営者や町金を経営する元銀行員など、登場人物は様々だ。最初の流れとしては、作者のいつもの定番かもしれないが、資金繰りに四苦八苦する経営者目線で描かれている。このあたり、経営者の苦しみがこれでもかと表現されている。

連続殺人事件は自殺の希望者が集まる霧というサイトがポイントとなる。誰が自殺をほう助したのか。次第に絞られてくる容疑者の中で、ひとりの怪しげな男が浮かび上がってくる。一人称で描かれているため、犯人の告白や過去のトラウマについて語られてはいるが、誰なのかわからない。

読みすすめていくうちに核心に近い人物が浮かび上がってくるのだが…。ミステリーの定番として、あえて読者をミスリードするような描き方をしている。そのため、ラストで真犯人が判明した際には驚きが待っている。

定番的なミステリーに、作者が得意とする銀行関連のエピソードが付け加えられている。一瞬、銀行の融資や企業経営での資金繰りに関することが大きな意味を持つミステリーかと思いきや、ほとんど関係はない。ただ、登場人物のひとりを説明するために用いたエピソードなだけだ。

容疑者となる人物も、町金を経営している元銀行員などがいる。早い段階でこの男が犯人ではないというのはわかるのだが、それぞれのキャラクターに物語として重要なポジションが与えられているかというと…。

わりとオーソドックスなミステリーだ。



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