名探偵は密航中 若竹七海


 2015.2.17      豪華客船内でのミステリー 【名探偵は密航中】

                     


■ヒトコト感想

昭和初期、ロンドンへ向かう何十日にもおよぶ船旅の中で起こる出来事が語られている。連作短編集だが、様々な物語となっている。オカルトあり猫が主役の物語ありミステリーあり。固定的な主人公がいるわけではないので、短編により雰囲気は大きく違ってくる。

昭和初期の時代に海外へ船旅にでる人々なので、かなりの上流階級だ。それらの人々が、船内で巻き起こる様々な出来事に右往左往する。特にじゃじゃ馬令嬢に関しては、かなりキャラ立ちしている。やることがいちいち大げさで、最後の最後にはちょっとしたロマンスまで…。作者の作品にしては陰鬱な雰囲気がなく、終始明るく楽しげな作品となっている。

■ストーリー

昭和5年7月、豪華客船・箱根丸(はこねまる)は横濱(よこはま)港を出港、倫敦(ロンドン)へ向かった。出港早々、殺人事件の容疑者が乗船していることがわかり、大騒動に。その後も、男爵令嬢(だんしゃくれいじょう)の逃亡騒ぎ、幽霊船の出現など、奇妙な事件ばかりが起こって……。じゃじゃ馬令嬢から意外な名探偵まで、魅力的な登場人物たちが大活躍。ミステリーの楽しみがギュッと詰まった、傑作オムニバス・ストーリー!

■感想
「猫は航海中」は、一風変わったオカルトミステリー?だ。殺人事件が起こり、その被害者の幽霊を猫が見てしまう。なんだかヘンテコで、猫絡みの話が面白い。猫嫌いな夫人と猫大好きな夫婦。猫が好きすぎて猫用に船内の部屋をとる。

そこが殺人事件の起こった現場だけに、猫が幽霊を見てしまう。最初はどのような結末になるのか想像もつかないが、一度、船を降りた猫嫌いの夫人が、また船に乗ってきたことに大きな意味がある。そんなことが可能なのか?と思ってしまうが、ニヤリとしてしまう。

「幽霊船出現」は、船内に乗り合わせた人たちが、お互いの恐怖体験を語る。そこにいた元研究者の博士がすべてに合理的な説明をつけるのだが…。オカルト的な話が語られ、それを看破する博士の理論はかなり強引だが、勢いがある。

ただ、ラストの小粋なオチが、この短編を面白いものにしている。みなが語る不思議な話に、これでもかと合理的な説明を無理やり付け加える博士の強情さが良い。それぞれのオカルト話もそれなりに興味深いものなので、なおさら面白く感じてしまうのだろう。

「船上の悪女」は強烈だ。船内でいたずらばかりしていた子供が、睡眠薬を大量に飲み階段から落下し意識不明となる。子供が残した日記から事件か事故かを紐解くのだが…。看護婦が解き明かす謎はすさまじい。

現実に起こることではないのだが、謎としては面白い。子供目線で、父親に言い寄る怪しげな赤い口紅を塗った女。いかにもいわくありげなふたりの行動。子供の日記からさまざまな想像を働かせるが、たくみなミスリードで物語を複雑にしている。

豪華客船内で起こる様々な出来事が面白い。



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