マグマ 真山仁


 2015.7.16      東日本大震災を予言するような 【マグマ】

                     
真山仁おすすめランキング


■ヒトコト感想

東日本大震災により原発事故が起こる前に描かれた作品ということに意味があるのだろう。原発の危険性を叫び、地熱発電を発展させようと四苦八苦する者たちの物語。外資系ファンドの野上が、上司から再生を命じられた企業は小さな地熱発電の企業だった。正直、本作が出版された時期は、多少の事故があったとしても原発全盛の時代だったはずだ。

それが、原発を否定し、新たなエネルギーとして地熱発電に目を付けた作者は、かなり先見の明があるのだろう。事故が起きた後に本作が出版されたとしたら、特別驚くことはない。まるで事故を予見するかのような流れがすばらしい。地熱発電のすばらしさはイマイチ伝わってこないが、原発否定の流れを作り上げているのがすごい。

■ストーリー

外資系投資ファンドの野上妙子は、民事再生法を申請した「日本地熱開発」の担当を命ぜられる。原子力発電の陰で見捨てられ続けてきた地熱発電所を今なぜ、そしてどうやって再生できるのか――? 政治家、研究者、地元環境団体……様々な人間の思惑が錯綜する中、妙子は奔走する。世界のエネルギー情勢が急激に変化する今、地熱は日本の救世主となれるか!? 次代を占う、大型経済情報小説。

■感想
俗にいうハゲタカファンドが「日本地熱開発」を買い取り、地熱発電を日本のメインエネルギーとしようとする。国策として原子力政策がある中で、地熱発電をメインに据えるには、かなりの根回しと労力が必要だろう。

東日本大震災による原発事故が起こった現在ならまだしも、原発依存を強めようとしていた時代に、地熱発電へとシフトするにはかなりの理由が必要だ。本作では外圧と、内部の自浄作用により原発を削減する方向へと流れている。ただ、そこまですなりと進むとは思えない流れであることは確かだ。

外資系ファンドの強烈なやり口が描かれているのも特徴かもしれない。目的を達成するためには、邪魔なものはすべて飲み込んででも自分の思い通りに物事を動かそうとする。そんな外資系ファンドの日本のトップともなると、謀略に長けている。

純粋に地熱発電を成功させるのとは別に、自分たちの目的を達成するためにあらゆる手段を講じる部分は非常に恐ろしく感じた。企業は金勘定だけできれば大きく成長するわけではない。社員の頑張りをどの程度想定するのか。外資系の強烈な目標への熱量を感じずにはいられない。

地熱は日本の未来を救うのか。謀略がうごめく政治の世界での暗躍と、原子力村とよばれる利権を得ている者たちの結束力。既得権益を持つ者たちとの戦いというのは相当な労力が必要だ。本作は、そのあたりを権力を持つ政治家の暗躍と、外資系ファンドの親玉の圧力により覆すという流れがある。

地熱発電が真にすばらしく、日本のエネルギー問題を救う可能性があるのなら、現実世界でも地熱発電がもっと注目されても良いのだが…。そうならないのは、本作に描かれているのとは別の理由があるのかもしれない。

東日本大震災前に本作が描かれたというのが、なによりの驚きだ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp