2017.1.11 どこまでも付いてまわる血筋 【境遇】
評価:3
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■ヒトコト感想
それぞれが児童養護施設で育った陽子と晴美。陽子は議員と結婚し絵本作家として成功する。晴美は新聞記者として成功し、ふたりは幸せな生活を送っているのだが…。生まれをどのように考えるのか。人によっては、血というか遺伝子を重視し、生まれが悪いとそれだけで排除しようとする人はいるのだろう。脅迫状と共に陽子の息子が誘拐される。
真実を公表することが息子を解放する条件となる。議員である夫の秘密かと思いきや…。人の血筋はどれだけ人の性格や人生に影響をおよぼすのか。それまで良い人と思っていたとして、児童養護施設出身だとわかると、とたんに態度を変える人もいる。そして、本人も、自分の親がどのような人物なのか、知りたいという思いは強くなるのだろう。
■ストーリー
デビュー作の絵本『あおぞらリボン』がベストセラーとなった陽子と、新聞記者の晴美は親友同士。共に幼いころ親に捨てられ児童養護施設で育った過去を持つ。ある日、「真実を公表しなければ、息子の命はない」という脅迫状とともに、陽子の息子が誘拐された。「真実」とは一体何なのか。そして犯人は……。
■感想
幼いころに親に捨てられ児童養護施設で育った陽子と晴美。それぞれは成長し幸せな生活を送っていたのだが…。議員の妻となった陽子にとって、自分が養護施設出身だということは隠すべきことなのだろう。どこからか不穏な噂が立ち、夫の仕事に影響をおよぼすのかわからない。
さらには講演会など議員の周りをサポートする様々な人々の思惑が陽子を苦しませることになる。児童養護施設出身という境遇は、いつまでたってもなくなることはない。たとえ陽子がどれだけ人格的にすばらしい人物だとしても、その境遇は死ぬまでついてくることになる。
晴美は自分の親を知りたいと考える。陽子へ話した自分の境遇が、そのまま陽子作の絵本としてベストセラーとなり、一躍陽子は時の人となる。晴美が陽子に対して嫉妬しているという描写はない。逆に陽子の現在の境遇に同情している雰囲気すらある。
陽子の息子が何者かに誘拐された時、晴美は親身になって陽子へアドバイスする。犯人の要求が、議員である陽子の夫の秘密ではなく、陽子自身の秘密を公表するとわかった時、物語は大きく動き出す。ここから、人の境遇の重さというのが強烈に描かれている。
過去の殺人事件の犯人が、自分の親ではないかと知った時の衝撃はすさまじいのだろう。自分はどんな親から生まれたのか、と想像したとしても、ごく平凡な親を想像するだろう。それが、実は自分の親は殺人犯であったと知った時。また、周りがそれを知った時の衝撃はすさまじい。
人によっては殺人者の血筋ということが、すべてにおいて重要な意味をもつ場合もある。特に議員の妻である者が、殺人者の血を引いていたとわかった時、残された道は離婚しかないのだろう。
人の境遇(血筋)は、どこまで人についてまわるのだろうか。
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