クージョ スティーブン・キング


 2016.6.29      狂犬病の恐怖 【クージョ】

                     
クージョ (新潮文庫) スティーヴン・キング;
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■ヒトコト感想
超常現象的なホラーかと思いきや、現実的な恐怖と緊迫感にしびれてしまう。簡単に言ってしまえば、狂犬病にかかったセントバーナードが人を襲うという話だ。怪物のように外へでて人を襲うのではなく、家に籠りやってくる人を攻撃する。登場人物たちを細かく描写し、それぞれの人生についてもしつこいほど細かく描く。そのことにより、ひとりひとりにしっかりとした思い入れができる。

クージョの飼い主であり、車の修理のプロのキャンパーがクージョにかみ殺されるまで。そして、夫に不倫がばれたことによりギクシャクした関係のまま、車の修理へとやってきたトリントン夫人。関係ないと思われたエピソードも、実は重要なカギとなる。非常に濃密な恐怖小説だ。

■ストーリー

キャンパー家で飼われているセントバーナードのクージョ。クージョはコウモリに鼻さきを引っかかれたことにより、狂犬病を発症する。キャンパー家へ車の修理を依頼しにやってきたトレントン家の妻と息子は、そこでクージョと遭遇することになるのだが…。

■感想
狂犬病のイメージはなんとなくあるのだが、人が感染した場合は高い致死率の非常に恐ろしい病気だという印象だ。セントバーナードのクージョが狂犬病になる。クージョ目線のパートがあり、そこではクージョは痛みや苦しみはすべて目の前にいる人間が起こしているものと考え、相手に対して強烈な敵意をむき出しにして攻撃する。

巨大なセントバーナードに襲い掛かられると、大の大人でもひとたまりもないだろう。ある程度身構えていたとしても、熊のような巨体にのしかかられるとあらがいようがない。

キャンパーの家で起こる悲劇。かすかにクージョの様子がおかしいことに気づいた者や、クージョが狂犬病に冒されていると気づいたとしてもクージョの襲撃から逃れることはできない。万全とはいえないまでも、ある程度準備していたとしてもクージョにやられてしまう。

そして、極めつけはトリントン夫人と息子のふたりだ。クージョに襲われた際に偶然車の近くにいたことで、車の中に避難できた。が、そこからはクージョとの永遠の我慢比べが続く。

クージョと平凡な主婦の戦い。車の中は蒸し風呂のような状態で、外にはクージョが待ち構えている。トリントン家の異変に気づいたホワンカンがやってきたとしても、クージョの餌食となる。すさまじい緊迫感と、クージョに対するトリントン夫人の激しい怒りを感じずにはいられない。

クージョが狂犬病だと気づき、少しでも噛まれたら終わりという恐怖がトリントン夫人を襲う。子供を守る強い母と、死にたくないという人の生への執着。すさまじいラストは想像以上だ。

トリントン夫人の最後の暴れっぷりが本作のすべてだろう。



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