心はあなたのもとに 村上龍


 2015.12.15      Ⅰ型糖尿病の苦悩 【心はあなたのもとに】

                     
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■ヒトコト感想

主人公は投資組合を経営する西崎。いつもの作者のキャラクターと同様に、リッチで富裕層としての生活を謳歌している。風俗嬢の香奈子と出会い愛人関係となる。西崎のリッチな生活としての興味深さがある。豪華なホテルに泊まるのはもちろんのこと、香奈子に対しても専門学校の授業料や、Ⅰ型糖尿病を患う香奈子の入院費も払う。

投資組合の経営者としてハードな仕事をこなす西崎。香奈子とのメールのやりとりがキーワードとなっている。特殊な病気を患う女性と愛人関係にある男が、どのような考え方をするのか。リッチな経営者たちとの会合や、愛人を伴っての旅行など、特殊な環境での面白さがある。西崎は、すべてを手に入れたような男だが、その奥深い苦悩も描かれている。

■ストーリー

投資組合を経営する西崎は、風俗嬢「サクラ」と客として出会う。香奈子という本名の彼女は、難病・1型糖尿病を患っていた。二人の逢瀬は二年半続き、突然断ち切られた―。西崎の手元には、香奈子からの六百四十三通のメールだけが残された。この時代に生きる男女の「愛」の形を問う。

■感想
家庭を持ち、投資組合の経営者としてバリバリ仕事をし、愛人を持つ。西崎のリッチな状況というのは、作者が描く物語の主人公としてはよく登場するキャラクターだ。良い仕事をするには、金を惜しまない。愛人に対してもそれなりに良い待遇をする。

風俗嬢として仕事をしていた香奈子を愛人とする。香奈子がⅠ型糖尿病という特殊な病気を患っていることが物語のポイントだ。本作で初めて知ったのだが、Ⅰ型糖尿病というものが存在し、普通の糖尿病とは違い生活習慣病とは関係のない話ということに衝撃をうけた。

西崎と香奈子の関係というのは、いびつなようでありながら仲の良い恋人のように感じてしまう。常にメールでやりとりをする。香奈子のメールだけ読むと、その熱愛具合がよくわかる。ただ、根本にあるのは、西崎は家族を持っているということだ。

本作では香奈子との関係がメインに描かれているため、西崎の家族についてはほとんど描かれていない。普通に考えると、香奈子の立場というのは悲しい立場のはずだ。にもかかわらず、香奈子の愛はひたすら西崎へ向かっている。いびつな関係に思えて仕方がない。

香奈子だけでなく西崎も香奈子に対して熱烈な愛をそそいでいる。特殊な病気を持つ香奈子と少しでも連絡がとれない状況となると、途端に不安に襲われる西崎。お互いに依存関係にあり、香奈子などは精神的に病んでいるようにすら思えてくる。

肉体の不安が精神にまで浸食しているといった感じだ。Ⅰ型糖尿病という特殊な状況下にある愛人とどのようにしてうまくやっていくのか。西崎の投資組合を運営する仕事の困難さや、達成感というのはすさまじいものがあるのだろう。ただ、何よりも香奈子が大事だというのが伝わってきた。

Ⅰ型糖尿病という特殊な病気のことは、まったく知らなかった。



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