金融探偵 池井戸潤


 2015.9.26      オカルトチックな短編がポイント 【金融探偵】

                     
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■ヒトコト感想

破たんした銀行に勤めていた元銀行員が、無職となりひょんなことから始めることになった金融探偵。次郎が調査する事件は、金融関係のものもあれば、金融とはまったく関係のない王道ミステリーのパターンもある。事件毎にコンパクトに短編としてまとめられているので読みやすい。

作中ではあちこちに、元銀行員はつぶしが利かない、という記述がある。金融の知識があればどこの企業にもひっぱりだこかと思ったが、そうではないらしい。巷にあふれる元銀行員が探偵を行う。角膜移植をされた男が、前の持ち主が見た景色を見るなんていう、少しオカルトチックな短編もある。金融とは関係のない事件が印象深い。

■ストーリー

失業中の元銀行員・大原次郎は、再就職活動中に金融絡みの難題について相談を受けた。これまでの経験と知識を生かし、怪事件を鮮やかに解決していく。出納記録だけの謎めいたノートの持ち主を推理するスリル満点の「誰のノート?」他全七篇

■感想
元銀行員の次郎が金融探偵として調査する出来事は様々なものがある。いつものごとく、企業と銀行が結託し不正をはたらき、弱い中小企業が苦しむという流れがある。「銀行はやめたけど」は、まさにこの手の作品だ。小さな銭湯が経営危機に陥る。

銀行からの融資がおりないことから、苦しみだす。大家と店子という関係から偶然調査することになった次郎。このあたりは、オーソドックスな金融探偵の仕事といえるだろう。ここから、金融探偵の仕事がスタートする。

異色なのは「眼」だ。角膜移植を受けた男が、頻繁に目に映る景色が気になり調査を依頼する。正直、金融とはまったく関係がない。それでも、物語としては強引にすすんでいく。金融としての要素が登場してくるのかと思ったが、そうでもない。

オカルト的な雰囲気から、最後に現実的な答えを示すのかと思いきや、そうでもない。予想通り、角膜を提供した男の、死ぬ直前の目線が焼き付いていたというオチとなる。金融は関係ないじゃん!という意味で印象深い。

「誰のノート?」と「家計簿の謎」は連作短編集だ。貴重な資料としての価値があると思われたノート。それが誰のノートかを調査する次郎。金融の要素はない、かと思いきや内容がフランスでの生活の際に書いた家計簿ということで、そのあたりから持ち主を判別する部分が金融探偵ということだろうか。

ノートの記述から推理し、人物を探り当てるのはまさに探偵の王道かもしれない。ただ、次郎の特徴は金融なのに、島崎藤村が登場したりと、ちょっとちぐはぐな印象を受けた。

なぜか印象深いのは、金融以外の短編だ。



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