きいろいゾウ 西加奈子


 2016.11.15      ヘンなあだ名をつけるツマ 【きいろいゾウ】

                     


■ヒトコト感想
お互いの苗字をそのまま読むと「ムコ」と「ツマ」になる風変りな夫婦の物語。田舎暮らしを始めた二人は、周囲の生き物や近所の人々と共に穏やかに生活する。その日の食事のメニューが印象的に語られ、平和で楽しい毎日を過ごしているようにも思える。

ツマが何かとあだ名をつけたがり、肝油の缶を被ってきた犬に対して「カンユさん」とあだ名を付け、犬に話しかけたりもする。生き物と会話ができるツマの、時たま発生する不安定な気持ちが物語のポイントかもしれない。メガデスなんていうあだ名を犬につけ、勝手に呼んだり。小説家のムコがツマを残して東京へ向かう。そこでツマとムコの関係にヒビが入ることになる。

■ストーリー
夫の名は武辜歩、妻の名は妻利愛子。お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う都会の若夫婦が、田舎にやってきたところから物語は始まる。背中に大きな鳥のタトゥーがある売れない小説家のムコは、周囲の生き物(犬、蜘蛛、鳥、花、木など)の声が聞こえてしまう過剰なエネルギーに溢れた明るいツマをやさしく見守っていた。

夏から始まった二人の話は、ゆっくりと進んでいくが、ある冬の日、ムコはツマを残して東京へと向かう。それは、背中の大きな鳥に纏わるある出来事に導かれてのものだった―。

■感想
ツマとムコの落ち着いた田舎生活というのは読んでいて心地良い。小説家のムコと専業主婦のツマ。ツマ目線の物語とムコ目線の物語に別れている。毎日の食事が質素だが、健康的でいかにも田舎生活にマッチしたものとなっている。

たまに家にやってくるカンユさんや近所のおじいさんとビールを飲んだり、登校拒否で田舎に逃げてきた子供と一緒に遊んだり。中盤までは、日々を穏やかに生活する田舎の雰囲気が、これでもかと表現されている。

事件らしい事件は起きない。ツマが生き物と会話ができることで、物語に多少の変化はある。登校拒否児の小学生が、ツマに恋をしそこから変化していく。小学生のうちから恥をかくことを極端に恐れる子供だったが、立ち直り東京に帰ることになる。

中盤以降はムコの小説が売れ始めたことから、ムコが書斎にこもりがちになる。そこから少しづつムコとツマの関係に変化が訪れることになる。ツマがムコの日記を読むことで、ツマの心に微妙な変化があらわれてくる。

ツマとムコの関係に変化が起きた原因は、ムコの過去の女の存在だ。ムコが東京に行きそこで女と合う。ムコもそのことを隠すわけでもなく、あからさまに日記に書く。ツマもそのことを問い詰めるわけでもなく、淡々と日々を過ごす。

きいろいゾウはツマの想像の産物だが、ツマの心の変化を如実に表しているのだろう。強烈なインパクトはないのだが、ムコとツマやその他の登場人物たちにヘンテコなあだ名がカタカナでついていることが妙に印象深い。

田舎生活にちょっと憧れをもってしまった。



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