2015.3.22 無感情に思える声がすばらしい 【風立ちぬ】
■ヒトコト感想
堀越二郎を描いた物語。飛行機にかける情熱と、時代に翻弄され、望まない形で飛行機が戦争へ使われることの悲しみを描く。特徴的なのは、二郎の声優が庵野秀明というアニメ映画の監督がやっているということだ。演技らしい演技がない、のっぺりとした会話。ただ、最初は違和感を覚えた二郎の声も、慣れてしまうから恐ろしい。
二郎の、ひたすら飛行機にかける情熱というのが、演技も何もない声により、真実味がわいてくる。ある意味、不幸な時代ではあるが、そんな時代でも飛行機に熱い情熱を注ぐ男の物語だ。合間に夢の中で大空を駆け巡る描写がある。どんな困難にもめげずに作り上げた飛行機が、戦争に使われることの悲しみが強烈に描かれている。
■ストーリー
かつて、日本で戦争があった。大正から昭和へ、1920年代の日本は、不景気と貧乏、病気、そして大震災と、まことに生きるのに辛い時代だった。そして、日本は戦争へ突入していった。当時の若者たちは、そんな時代をどう生きたのか?イタリアのカプローニへの時空を超えた尊敬と友情、後に神話と化した零戦の誕生、薄幸の少女菜穂子との出会いと別れ。この映画は、実在の人物、堀越二郎の半生を描く─。
■感想
ジブリ映画ではあるが大人向けだ。繰り返し描かれる煙草を吸うシーンや、二郎の妻が結核におかされ、余命わずかのシーンなど、ジブリらしくない。堀越二郎という実在の人物を描いているので、そこまでドラマチックなことはないのだろう。
物語を盛り上げるために、二郎が夢の中でイタリアのカプローニと飛行機について語り合うのがものすごく印象的だ。前半は、飛行機作りに情熱を注ぐ二郎がひたすら描かれている。自分的にはこのあたりの描写が、未来に向けるワクワク感にあふれているように感じた。
二郎が生きる時代は大震災や不景気など、非常につらく厳しい時代だ。にもかかわらず、ひたすら飛行機へ情熱をかける二郎。本作が前向きに感じるのは、二郎が会社から評価され、大きな仕事に対してひたむきに突き進んでいるからだ。
どれだけ困難があろうとも、飛行機が戦争の道具にされようとも、前向きなその姿には感動してしまう。特に、部下たちを集めて新しい飛行機について議論する場面はすばらしい。次々と新しいアイデアを生み出し、戦争のために、泣く泣くアイデアを断念する。ただ、そこには明るく前向きな気持ちがある。
二郎の妻が結核で余命わずかというのが、もうひとつのポイントだ。飛行機作りと妻への愛。悲壮感漂う場面ではあるが、二郎の声が非常に平坦なので、そこまで悲しんでいるように感じない。これが逆に良いような気がした。
感情的に悲しむ二郎よりも、悲しみを表にださず、夢に向かって突き進む二郎の方が、本作にはあっている。二郎が作り上げたすばらしい飛行機は、最終的に戦争に投入され、人殺しの武器として使われる。戦争に対する強烈なアンチテーゼを感じることができる。
煙草のシーンでもわかるように、明らかに子供向けではない。
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