火星に住むつもりかい? 伊坂幸太郎


 2015.10.4      謎の正義の味方が秀逸だ 【火星に住むつもりかい?】

                     
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■ヒトコト感想

安全地区に選ばれると平和警察による統治が待っている。住人が相互に監視し合い密告する。密告された人はその内容に信憑性など関係なく、危険人物としてギロチンにかけられる。戦時中の日本をほうふつとさせるようなとんでもない世界だ。どこか今の日本を極端に描いているようにも思える本作。平和警察による激しい拷問と、無力な住人たち。

平和警察の横暴に対抗しうる人物として、ひとりの正義の味方が登場してくる。この正義の味方が謎めいていて良い。謎の黒い球を武器として、平和警察内部から冤罪で処刑を待つ者を救出する。何か得体の知れない怖さがある。世間の眼におびえる社会を極端に描いた作品だ。

■ストーリー

住人が相互に監視し、密告する。危険人物とされた人間はギロチンにかけられる―身に覚えがなくとも。交代制の「安全地区」と、そこに配置される「平和警察」。この制度が出来て以降、犯罪件数が減っているというが…。今年安全地区に選ばれた仙台でも、危険人物とされた人間が、ついに刑に処された。こんな暴挙が許されるのか?そのとき!全身黒ずくめで、謎の武器を操る「正義の味方」が、平和警察の前に立ちはだかる!

■感想
作者独特のキャラクターたちが、恐ろしいまでの監視社会で日々の生活を送る。現実世界でも冤罪はありえるのだが、本作はそれが極端な方向へ倒れた場合が描かれている。危険人物を事前に割り出し排除する。それができれば安全地区となりえる。

危険人物を排除する役目として設立された平和警察が強烈だ。作中でも言及されているように、中世の魔女狩りのような方法で怪しい者を片っ端から処刑していく。それは、ただ単に「あいつが嫌いだから」と適当に密告したとしても、成立してしまうから恐ろしい。

平和警察が仕切る恐怖の世界。そんな中でも、公安警察として登場する真壁のキャラは救いとなる。平和警察に異議を唱え、飄々と相手を非難する。いつもの作者のキャラクターと同様に、軽い感じだが、信念のある言葉が続く。

真壁の存在により、平和警察と対立する正義の味方とは別の希望のようなものが浮かび上がってくる。真壁の適切な推理により、正義の味方の正体がだんだんと暴かれていく場面はしびれてくる。序盤から中盤にかけての恐ろしげな雰囲気が一気に変化していく。

秀逸なのは、まちがいなく正義の味方の存在だ。謎の黒い球を使い、平和警察たちを倒していく。全身黒ずくめでフルフェイスのヘルメットをかぶる男。冤罪と疑わしき者たちの一部を救出する男の目的は?そして、武器の正体は?興味を惹かれる要素はつきることがない。

正義の味方の武器が、超強力な磁石だとわかってからも、正体が判明するまでは強烈な引きの強さがある。そして、正体が判明してからも、その行動のバックグラウンドにある考え方にしびれてしまう。

恐ろしい社会ではあるが、希望を見いだせるのが良い。



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