歓喜の仔 上 天童荒太


 2015.9.15      不幸な境遇に3兄妹 【歓喜の仔 上】

                     
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■ヒトコト感想

不幸な境遇に追いつめられた3人の兄弟を軸に、その両親や従弟の話へと繋がる物語。作者の他作品と同様に、非常に重い物語となっている。父親が借金取りに追われ蒸発し、母親は追いつめられ窓から転落し植物状態となる。寝ずに働いて家族を養う誠。ひとりで植物状態の母親の面倒をみる小学生の正二。霊的なものが見える幼稚園児の香。

それぞれが独特な世界観を持ち、協力して生活していくという雰囲気ではない。違法なことに手を染めてでも生き抜こうとする子供たち。同じアパートに住む特殊な住人たちや、誠が関係するヤクザたちも、どこか不幸なにおいを漂わせている。父親と母親がどのように出会い、結婚したかまでさかのぼる物語は非常に濃密だ。

■ストーリー

多額の借金の保証人になり1年前に家出した父。借金取りに追い詰められ、窓から転落して植物状態になった母。借金を返しながら家族を養うために高校を中退し、早朝から深夜まで働き続ける長男の誠。寝たきりの母をアパートで介護しながら妹の面倒をみる、小学6年生の正二。

母が倒れてから、おかしな真似をするようになった5歳の香。世界が一変した3人のきょうだいは、怒りや悲しみを押し殺し、ただ生き延びるために、誰も知らない犯罪に手を染める道を選んだ

■感想
父親が保証人となり蒸発したせいで、親の借金を背負うことになった3人の兄弟。兄の誠は朝から晩まで働き兄弟を養う。ただ、そこには兄弟思いの良い兄という面はない。常に心に怒りを抱え、父親を恨み、憎しみにより日々を生きるという感じだ。

生きるため、アジツケという麻薬を作る仕事をし、体を酷使しながら生活する。兄弟愛とは無縁な雰囲気が強く。誠の怒りは他者へと向かっていく。母親の面倒を見る正二にしても、学校でイジメにあうが、日々の暮らしの困難さに比べると、イジメが楽だと思うほど、辛く苦しい生活を送っている。

兄弟たちをそんな境遇へと陥れた両親の物語も描かれている。どのようにして出会い、どんなきっかけで結婚したのか。父親の方は自由奔放な従兄の影響が強く、結局のところ従兄の保証人になったことによる人生の崩壊がまっている。

母親は超がつく程の箱入り娘でありながら、人生を踏み外していく。そのタイミングがどこなのかはわからない。無責任な親なのか、それとも…。上巻としてこれでもかと不幸な状況が描かれ、その原因までもが語られていく。今後の展開は暗い方向にしか思えない。

世界が一変した兄弟3人の行く末は、上巻では語られていない。ただ、明るい未来が待っているとは思えない。ヤクザの道へ入り込む誠。母親の介護に疲弊する正二。霊が見えのめりこんでいく香。それぞれが感じる怒りや憎しみはどこへ向かっていくのか。

突然現れた父親の存在が、3人にどのような影響を与えるのか。読んでいて非常に辛い気持ちになるが、読むことを止められない。この3人が今後どのようになっていくのかを知りたいという気持ちが強くなる。

下巻への強烈な引きの強さがある。



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