歓喜の仔 下 天童荒太


 2015.9.28      家族を助ける最後の決断 【歓喜の仔 下】

                     
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■ヒトコト感想

上巻では不幸の連鎖と、違法な世界から抜け出せない誠の苦悩が描かれていた。蒸発した父親と植物状態の母親。上巻の状況から抜け出せる何かがあるのか。下巻では、父親の衝撃的真実が明らかとなり、さらには誠がある決断をする。これほど不幸な状況にありながら、逞しく生きる兄弟たち。

誠の頭の中で描く架空の人物と交互に語られる物語は、現実の辛さばかりがクローズアップされているような気がした。テロの世界で命の危険を感じながら生きるのが幸せなのか、それとも両親がいないも同様で、兄弟の面倒をみるために違法なことに手を染める方が幸せなのか。誠の最後の決断には、驚かずにはいられない。

■ストーリー

運命を切り拓く勇気がある者の胸に高らかに鳴り響け、“歓びの歌”。いじめ、差別、テロ、裏切り―。この残酷な世界で、なぜ人類は滅びないのか?生き抜くための“道標”。

■感想
上巻では誠たちの両親の出会いから語られ、結婚のなれ初めまで描かれていた。そんな夫婦は、嫁は寝たきりで意識がなく、夫は行方不明となる。残された幼い兄弟のことを考えると、必死で借金を返そうとする誠が健気でならない。

それはたとえ不正なことに手を染めようとも、そうしなければ生きていけないという証拠だろう。誠が逃げ出した父親に対して怒りの気持ちをもつのと同様に、読者もその気持ちを感じるだろう。が、下巻では父親の衝撃的真実が明らかとなる。

誠の状況は非常に複雑だ。アジツケという麻薬を小分けする仕事を通して、ヤクザの幹部から目をかけられる。違法な仕事から抜け出したいという思いがありつつも、抜け出せない現実にイライラする。恋人らしきものもできて、普通の若者らしくなったかと思うと…。

誠が根性を見せれば見せるほどヤクザに気に入られ抜け出せなくなる。これから35年間同じことをやりつづけると考えただけで気が遠くなるか、場合によっては命を絶ってしまうかもしれない。そんな状況でありながら、逞しく生きる誠の強さを感じる作品だ。

ラストは誠の決断が大きなカギとなる。ヤクザ内部の権力抗争から誠たちの家ががさ入れされる。事前に情報を得ていた誠はヤクザの幹部から、金を持って女と逃げろと言われるのだが…。自分が誠の立場だったら、とつい考えてしまう。

そして、誠の決断は想定外のものだった。この三人兄弟と寝たきりの母親が今後どうなるのかまったく想像がつかない。ただ、離れ離れにはなるかもしれないが、それぞれ幸せな生活をしているような気がした。

最後はひそかに希望が見えたので、読後感はすっきりしている。



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