架空通貨 池井戸潤


 2015.1.15      巨大企業に支配された街 【架空通貨】

                     


■ヒトコト感想

教え子の父親が経営する会社が破たんした。元商社マンで現在高校教師の辛島が、破たん企業を救おうと動き出す。企業の破たんの仕組みと、金は企業にとって血と同じだという言葉が心にしみる。どれだけ企業の業績が良いとしても、資金繰りが悪化すればあっさりと倒産してしまう現実。ひとつの取引先に依存することの危機。

街の経済がひとつの大企業に支えられている場合、その企業の死は街の死とイコールになる。企業が独自に流通させた振興券が街にはびこる。五年後に現金化されるはずの振興券にどれだけの価値があるのか。独自通貨が蔓延する街の行く末は…。どこかモデルの街があるわけではないのだろうが、ものすごくリアルに感じてしまう。実際にどこかで架空通貨が当たり前に使われているようで恐ろしくなる。

■ストーリー

女子高生・麻紀の父が経営する会社が破綻した――。かつて商社マンだった社会科教師の辛島は、その真相を確かめるべく麻紀とともに動き出した。やがて、2人がたどり着いたのは、「円」以上に力を持った闇のカネによって、人や企業、銀行までもが支配された街だった。

■感想
元商社マンが企業の破たんの謎を解明する。粉飾決算あり、マネーロンダリングあり、社債や振興券ありと、相変わらず作者の作品は経済の勉強になる。企業にとって金は血液と同じ。その流れが滞ると、どれだけ健全な企業であってもたちまち死がまっている。

金を貸す立場の銀行や、企業の財務を操作するコンサルタントなど、複雑に絡みあう利害関係により、中小企業はあっという間に吹き飛ばされてしまう。まず感じるのは、中小企業の経営者の資金繰りの辛さだ。常に金のことを考える生活は辛すぎる。いち従業員の幸せを噛みしめることができる作品だ。

企業の力関係が何より大きな影響力をおよぼすと気づかされる。街の経済がひとつの企業によって保たれている状況は危険だ。下請けが集まり、周辺の飲食店はその従業員ばかり。大企業が作り出した振興券が街に流通し始めると、そこから支配の力はさらに強まることになる。

企業のいわば手形的な振興券は世間に存在するのだろうか。五年後に現金化できる振興券を、街の飲食店で現金と同じように使うことのリスク。立場が弱いものに流れていく振興券。企業がつぶれれば紙屑になる振興券を、ババ抜きのように誰に押し付けるかだけを考える日々。非健全な街がそこにはある。

計画倒産やマネーロンダリングなど、規模の大きな経済的な動きはワクワクしてくる。でてくる金額は億単位なので現実的ではない。債権を回収したい銀行や債権者たち。資産を隠して再出発したい経営者。さまざまな思惑が交差した結果、衝撃的な結末となる。

振興券を押し付けられた弱い者たちは、支配企業がつぶれた時、どのような対向手段があるのか。理不尽な結末でもある。弱い者たちは結局泣き寝入りするしかないのが現実なのだろう。会社を経営することの辛さと、弱小下請け企業の悲しさばかりが印象に残る作品だ。

経済の勉強になることは間違いない。



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