株価暴落 池井戸潤


 2015.8.3      大企業が潰れない理由 【株価暴落】

                     
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■ヒトコト感想

巨大企業が業績不振におちいった場合、それを支援する銀行はどのような決断をするのか。巨大企業がつぶれるのは各方面に大きな影響を及ぼし、銀行自体にも大ダメージを与える。事なかれ主義の日本の銀行の体質や、巨大企業が救済されてきた真実が描かれている。本作を読むと、大企業というだけで優遇されすぎているように思えてしまう。

爆弾事件が起き、業績が極度に不振となり、回復の見込みがない。そんな状態であっても、銀行は損失を恐れ、問題を先送りにする。爆弾事件の犯人を追いかけつつ、銀行の体質や大企業がつぶれることの問題などが描かれている。爆弾事件関連の話に特別な印象はないのだが、巨大企業を救済するロジックが非常によくわかる作品だ。

■ストーリー

巨大スーパー・一風堂を襲った連続爆破事件。企業テロを示唆する犯行声明に株価は暴落、一風堂の巨額支援要請をめぐって、白水銀行審査部の板東は企画部の二戸と対立する。一方、警視庁の野猿刑事にかかったタレコミ電話で犯人と目された男の父は、一風堂の強引な出店で自殺に追いこまれていた。傑作金融エンタテイメント。

■感想
巨大スーパーを運営する企業に爆破事件が起こる。その結果、消費者から敬遠され業績は下降の一途をたどる。巨大企業が企業テロにより経営不振におちいり倒産の危険性がある場合、支援すべき銀行はどうするのか?回収の見込みのない資金を援助し続けるのか、それとも自分たちも痛みを伴うことを覚悟して支援を打ち切るのか。

相手が中小企業であれば容赦なく支援を打ち切るのだろう。それが、大企業だからという理由だけで、自分たちの損失が広がるのを防ぐために支援を続ける。本作を読むと、あっさり潰される中小企業経営者が気の毒に思えてしまう。

爆弾テロ事件に関しては、早い段階から容疑者が登場してくる。一風堂が新店舗を強引に展開した結果、その犠牲となった企業の経営者の息子だ。恨みから一風堂にテロを仕掛けているのか。逃亡する容疑者と追いかける刑事。

銀行の調査とは別に、刑事たちが事件を調査する。刑事は純粋に事件の解決を目指す。銀行員は、一風堂の経営の先行きを分析するために、テロの首謀者を割り出し、社会的影響をかんがみる。なんだか銀行が刑事よりも必死に犯人を探ろうとするのは、非常に滑稽に感じてしまう。

ラストは企業の理論が勝つのか、銀行の良心が勝つのかといったところだ。企業として銀行が存在する場合、巨額の不良債権は避けたい。そして、今だけ良ければと問題を先送りにすることもできる。が、銀行本来の目的である回収できるところに貸す、ということをどこまで突き詰めるのか。

世間の銀行にとっては、巨大企業をつぶすということは難しいのだろう。それは政府も同じだろう。強烈なインパクトはないが、なぜ巨額の赤字をだした大手企業がつぶれずに生き残り続けるのか、疑問が解けた気がした。

中小企業に比べ、はるかに優遇されている大企業。これが現実なのだろう。



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