2017.6.12      今風の若者の孤独感 【銃】

                     
銃 [ 中村文則 ]
評価:3.5

■ヒトコト感想
大学生の西川がある日偶然銃を手に入れたことから、その後の日々の生活が変化していく物語だ。西川の一人称の物語で、スカした大学生のイメージが強い。表面上は人との付き合いはできているが、内面では孤独を感じている男。自分は孤独でちょっと人とは違う。なんてことをひとり考える典型的な大学生だ。そんな西川が銃を手にし、銃を撃ってみたいという衝動にかられる。

猫に対して試し打ちをしてから、警察が西川の元にやってくると、西川に変化がおとずれる。そこから崩壊が始まる。強い孤独感を感じる作品だ。女と知り合いになったとしても、そこに充実感はない。全ての事柄に覚めてた視線を送るが、銃だけは別格だ。自分もこんな感じだと思う大学生が続出かもしれない。

■ストーリー
雨が降りしきる河原で大学生の西川が出会った動かなくなっていた男、その傍らに落ちていた黒い物体。圧倒的な美しさと存在感を持つ「銃」に魅せられた彼はやがて、「私はいつか拳銃を撃つ」という確信を持つようになるのだが…。TVで流れる事件のニュース、突然の刑事の訪問―次第に追いつめられて行く中、西川が下した決断とは?

■感想
そこそこの成績、人間関係は良好、女には不自由しない。充実した学生生活を送っているかと思いきや、どこか満たされない気分を感じる西川。偶然銃を手にしたことから生活に充実感が生まれるのだが…。すぐさま銃を撃つのではなく、銃を持っているということを楽しむ西川。

コンパで女と知り合い、深い仲になっても、それは日常の一場面でしかない。西川の心には常に銃がある。一人称で常に心境が語られているため、非常にスカした印象を受ける。若者が憧れるクールな大学生のように思えてくる。

不幸な生い立ちだが、現在の両親は問題ない。物理的には何不自由のない生活だが、精神的には満たされない。クールで何事も取り繕うのがうまい。無駄なトラブルはなく、合理的な性格。非常に現代っ子的な要素にあふれているが、どこかもろさを感じる主人公だ。

満たされない孤独感を銃で満たしているのか。死にかけた猫を楽にしてやるつもりで銃を撃ったのか、それとも銃を撃ちたいから理由を探していたのか。おそらく後者のような気がしてならない。

追い込まれた際に西川がどのような表情をしているのか描かれていない。ただ、他者の反応が普通とは違っているので、追い込まれた西川の表情は尋常ではないのだろう。猫の惨殺死体から警察に目を付けられることになる。

警察から尋問を受けた西川は、現代っ子的な雰囲気をだしながら、強烈なインパクトがある。そして、追い込まれた際に、突発的に銃を使うことになる。今まで良い子で過ごしていたはずの人物が、突如として凶行に走る。「そんな風には見えなかった」と友達がインタビューに答えるパターンだろう。

孤独な西川に共感できるのが、今の若者たちなのだろう。



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