ジャイロスコープ 伊坂幸太郎


 2015.11.29      セミンゴは強烈だ 【ジャイロスコープ】

                     
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■ヒトコト感想

短編としてのまとまりはない。多種多様で、面白さの要素も違う。それらをまとめるために、描き下ろしとして「後ろの声がうるさい」を収録したのだろう。いくつか印象的な短編がある。作者らしくないということで言えば、「ギア」だろう。疾走するバスの中で謎の「セミンゴ」の話が語られる。オチもなにもなく、ただセミンゴの生態を淡々と説明されているのだが、内容に妙な面白さがある。

頭の中ではゴキブリをイメージしていたが、突然、体長は3メートルで、なんて言葉がでてくる。理不尽ではあるが面白い。物語としての面白さは「浜田青年ホントスカ」や「if]だろうが、特徴的なのは、間違いなく「ギア」だ。伊坂ワールド全開の短編集だ。

■ストーリー

助言あります。スーパーの駐車場にて“相談屋”を営む稲垣さんの下で働くことになった浜田青年。人々のささいな相談事が、驚愕の結末に繋がる「浜田青年ホントスカ」。バスジャック事件の“もし、あの時…”を描く「if」。謎の生物が暴れる野心作「ギア」。洒脱な会話、軽快な文体、そして独特のユーモアが詰まった七つの伊坂ワールド。書下ろし短編「後ろの声がうるさい」収録。

■感想
「浜田青年ホントスカ」は、相談屋がでてくるあたり、なんとも作者らしい。人の悩みを解決するわけではなく、アドバイスをする。それが仕事になることに違和感を覚えるが、浜田青年が偶然相談屋の手伝いをすることになる。何より秀逸なのは、相談屋の仕事内容だ。

当たり障りのない答えもあれば、納得の答えもある。「本当っすか」が口癖の浜田くんにどのような出来事が起こるのか。浜田くんが相談屋の手伝いをするが、一週間外にでないでくれと言われた理由の種明かしもしっかりと描かれている。

「if」は世にも奇妙な物語にでてきそうな話だ。ある男が、バスジャックに遭遇する、そこで男たちは降りろと言われ、不本意ながらもバスを降りることになる男たち…。過去の出来事に後悔しつつ、やり直せるならやり直したいと考える男の話だ。

物語は、偶然にもやり直すチャンスに直面する。叙述トリックというか、小説だからこそ驚きを交えながら楽しむことができる作品だ。単純にifを実行するのではなく、バスジャックの犯人までもがifを実行していたことに、妙な面白さを感じてしまった。

「ギア」は伊坂幸太郎らしくない作品だ。セミンゴという謎の生物から逃げるという作品なのだが、まずセミンゴの説明が面白い。ゴキブリが一匹いれば十匹いるものと考えろ、という例えがあるが、それを流用しつつ、本当に一匹いたら十匹。二匹いたら二十匹いるというのを説明している。

てっきりゴキブリ的な生物かと思いきや、体長3メートルに体重100キロという部分に度肝を抜かれてしまう。地球がセミンゴに支配されてしまうかもしれない世界。セミンゴとは何なんだ?というのが細かく説明されても最後まで意味不明なのが良い。

個性豊かな短編集だ。



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