人類資金7 福井晴敏


 2016.3.5      エピローグへの仕掛けがすばらしい 【人類資金7】

                     
人類資金 7 限定版
福井晴敏おすすめランキング
■ヒトコト感想
人類資金シリーズの完結編。M資金を使ってどれだけ壮大なことをやり遂げたのか。本作ですべてが判明するかと思いきや…。すでにM資金の使い道は明らかとなっている範囲でしかない。情報格差のある社会を変えるために、アジアの小国の人々にPDAを持たせる。そこにM資金をつぎ込み、まだ未開の小国を発展させ、世界規模で発展していくという流れらしい。

前作で本庄が手に入れた”爆弾”についても、ある程度想定内だ。ハロルドや真舟たちが必死になる目的よりも、その過程に強烈な面白さがある。株価を操作するための激しい仕手戦と、暢人を助け出すための戦い。とりわけ仕手戦については、あらゆる者たちが関わることで流れの壮大さが描かれている。

■ストーリー

本庄が命と引き替えに手に入れた“爆弾”を託された真舟と美由紀は関西最大の広域暴力団と組み、世界の株式市場を相手に壮絶な仕手戦を仕掛ける。期限はわずか三週間。そして石は暢人の命と『M資金』の未来を背負い、ただ一人ある舞台へと――。人間への信頼を高らかに謳い上げる一大巨編、ついに完結!

■感想
M資金の使い道と暢人の救出。それが本作のメインであるはずが、M資金の使い道についてはすでに判明している範囲でしかない。とりたてて新しい流れがあるわけではない。発展途上国の人々に情報を与えることで、その国が発展し、ひいては世界規模での経済発展が見込めるという流れだ。

ただ、それに対して反対していたハロルドが、本作でより血眼になるのは、本庄が手に入れた爆弾のせいだろう。となると、今までの巨大組織同士の対決というよりも、真舟たち対ハロルドの個人的な戦いのように思えてしまった。

真舟たちがハロルドたちの策略を打ち砕くために挑んだ仕手戦。それをスタートさせるために、ヤクザや過去の仲間たちへ協力を依頼する。そして、痛快なのは真舟たちが仕手戦の本拠地に選んだ場所だ。まさか普通に考えてありえない場所で仕手戦を繰り広げる。

先の先を読んだ上でのことなのだろうが、すさまじい。そして、仕手戦にしても順調にいくのではなくハロルドが巨大組織を使っての妨害があり、一度はあきらめかけておきながら、最後の最後に逆転がまっている。わかってはいるが、この流れは良い。

本作の一番の衝撃はどこなのだろうか。恐らくは真舟が用意した最後の最後に自分たちが逃げ出す仕掛けだ。自らを犠牲にした真舟の行動。エピローグへ向けての仕掛けとしてはこれ以上ないほど効果的だろう。すべてがうまくいき、なんでもかんでも丸く収まるはずがない。

稀代の詐欺師である真舟が身を切ることで事態を収拾させたということなのだろう。M資金関連の話はすでに4巻くらいで終わっている。巨大資金を使う、というそれだけならば早めにオチは判明している。それをうまく使うための仕掛けが本作で描かれているということだ。

この長大な物語が、どのようにして映画化されたのか、かなり気になるところだ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp