じごくゆきっ 


 2017.11.21      残酷さを感じさせない文体 【じごくゆきっ】

                     
じごくゆきっ [ 桜庭 一樹 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
7つ短編が収録されている本作。残酷な内容ではあるが、それを感じさせない雰囲気がある。どこか軽い感じでなんでもないようなことだが、内情はものすごく深刻で残酷な出来事が、なんでもない日常のような描き方をされている。

表題作でもある「じごくゆきっ」は、退屈な日常から抜け出すためにピンクハウスが似合うバカな女教師と共に疾走する女生徒の話だ。もしかしたらレズの要素もあるのだろうか?明確にそのあたりは表現されていないが、流されるままに現実から逃げ出しただけのようには思えない内容だ。その他にも、「ロボトミー」という残酷な物語もある。文体が軽い感じなのですべてが軽く感じるのだが、内容はディープだ。

■ストーリー
かわいいかわいい由美子ちゃんセンセ。こどもみたいな、ばかな大人。みんなの愛玩動物。そんな由美子ちゃんの一言で、わたしと彼女は、退屈な放課後から逃げ出した。あまずっぱじょっぱい、青春譚――「じごくゆきっ」。ぼくのうつくしいユーノは、笑顔で、文句なく幸福そうだった。あのときの彼女は、いまどこにいるんだろうか。

ユーノのお母さんの咆哮のような恐ろしい泣き声。僕はユーノにも、その母親にも追い詰められていく――「ロボトミー」。とある田舎町に暮らす、二人の中学生――虚弱な矢井田賢一と、巨漢の田中紗沙羅。紗沙羅の電話口からは、いつも何かを咀嚼する大きくて鈍い音が聞こえてくる。醜さを求める女子の奥底に眠る秘密とは――「脂肪遊戯」。7編収録の短編集。

■感想
「じごくゆきっ」はバカでかわいい由美子先生と逃避行する女子高生の物語だ。男子高生と女教師ならわかる。それが生意気ざかりな女子高生と、女子高生に最も嫌われそうな可愛らしい女教師との旅というのが特徴だろう。

バカで可愛いから男たちに人気がある由美子。なぜあえて女子高生を逃避行の道連れに選んだのか。体育教師と結婚するという噂のある由美子。鳥取砂丘に行ったりと、ちょっとした旅行気分の中、体育教師が由美子を迎えに来る…。女子高生の気持ちはイマイチよくわからない。

「ロボトミー」は強烈なインパクトがある。ユーノと結婚した男は、ユーノの押しの強い母親に困惑する。ユーノと別れることになり、ユーノが脳腫瘍となり新しいことを記憶できなくなると、義母は離婚した男にユーノの面倒をみろと迫る。

男がユーノに対して行う地味な復讐は強烈だ。ユーノが新しいことを記憶できないのを良いことに、ユーノが一番悲しむことを告げる。ただ、次の日になると、ユーノは何事もないように男を新婚時代の良い思い出と共に迎える。非常に残酷な物語だ。

「脂肪遊戯」はブルース・リーの死亡遊戯にかけているのだろう。電話口でおかしを食べ続ける紗沙羅と虚弱体質な賢一の物語だ。食べることでブクブクと太り醜くなる紗沙羅。当の本人は、自分が痩せやすい体質だから常に何かを食べ続けなければ体を維持できないと言う。

なぜ紗沙羅は食べ続けるのか。おかしが食べたいことへの言い訳のようにも聞こえるが…。実は紗沙羅が醜く太り続けるのには衝撃的な理由があった。電話口から聞こえる食べ物を食べる音というのが面白い。

残酷さを感じさせない文体がある。



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