田舎でロックンロール 奥田英朗


 2015.4.5      70年代洋楽ロックファンはヨダレもの? 【田舎でロックンロール】

                     
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■ヒトコト感想

70年代洋楽ロックファンならば間違いなく楽しめるだろう。自分は世代的にも趣味的にもまったくカスることがないので、ロックの部分は正直何がどうなのか全然わからなかった。作者が中学高校時代にはまった洋楽ロックについて語るエッセイ。当然ながら、ロックグループの名前が連呼され、その評価や演奏スタイルについて当時の思いを語っている。

洋楽ファンでないならば、まったく楽しめないかというとそうではない。オクダ少年が過ごした時代に、少年が感じたことが少しだけ語られている。理不尽な学校の規則。ステレオが高価で変えなかった家庭。ドロップアウトしていった高校時代。純粋に70年代の青春物語として読んでも楽しめる作品だ。

■ストーリー

英米ロックが百花繚乱の様相を呈していた70年代。世界地図の東端の、そのまた田舎の中学生・オクダ少年もその息吹を感じていた。それはインターネットが登場する遥か前。お年玉と貯金をはたいて手に入れたラジオから流れてきた音楽が少年の心をかき鳴らした。T・レックス、ビートルズ、クイーン…。

キラ星のごときロック・スターたちが青春を彩り、エアチェックに明け暮れた黄金のラジオ・デイズ。なけなしの小遣いで買った傑作レコードに狂喜し、ハズれレコードを前に悲嘆に暮れる。念願のクイーンのコンサート初体験ではフレディ・マーキュリーのつば飛ぶステージに突進!ロックのゴールデン・エイジをオクダ少年はいかに駆け抜けたのか?

■感想
ビートルズにクイーン、ディープパープルにイーグルス。聞いたことはあるし、中には知っている曲があるグループもある。それでも、やはり洋楽ロックファンでなければついていけない部分がある。中学生のオクダ少年が初めて出合ったロック。そして、家にステレオが来た感動。

作者のエッセイが面白いことはすでに有名だが、本作も少年時代のエッセイは面白い。洋楽ロックがメインなのだが、オクダ少年の周辺を説明せずに洋楽ロックを語るわけにはいかないのだろう。学校の規則にがんじがらめにされたオクダ少年の苦悩が面白い。

岐阜の田舎で、まだそれほどメジャーではない洋楽ロックにはまるというのは、当時としては最先端なのだろう。レコードを買うのも一苦労。その前に家にステレオがない。ラジオからスタートした洋楽生活。今では考えられないほど不便な生活だが、不便だからこそ、燃えるのかもしれない。

洋楽ロックにはまるというのが、特に興味のない自分にはよくわからない。ただ、青春時代に何かひとつでもはまるものがあり、それに熱くなるというのはうらやましい。作者の面白文章と相まって、洋楽ロックに興味がなくとも楽しく読むことができる。

巻末には、まるでオクダ少年をそのまま主人公にしたような短編小説がある。教師に反抗し、ビンタされ、給食時間の校内放送でロックをかけようとする。教師に目をつけられることをわかっていながら、仲間たちと悪さをする快感というのが伝わってきた。

作中では、教師の理不尽な教育的指導があり、それを受け入れるしかない無力な中学生でありながら、かすかな反抗を見せる部分は、思わず読んでいて熱くなる。作者の作品は、なんでもない日常の出来事ながら、強烈な面白さがある。

ロックに興味がなくとも、70年代に縁がなくとも楽しめることは間違いない。



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