春から夏、やがて冬 歌野晶午


 2015.1.27      不幸が不幸を呼ぶ 【春から夏、やがて冬】

                     

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■ヒトコト感想

不幸の連鎖というか、不幸な境遇が不幸を呼び寄せ、最後まで不幸が続く物語だ。スーパーの保安責任者である平田が、万引き犯の末永ますみを捕まえたことから始まる本作。娘を事故で亡くし、連鎖的に妻を亡くし、さらには自分自身も末期がんで先がない。同じく彼氏よりDVを受け続けた末永ますみも、彼から別れることができず悩んでいる。

人生に投げやりになった平田と、そんな平田を気にかけるますみ。平田が、亡くなった娘と同じ年齢のますみを気にかけ、金を援助するあたりは、不幸なふたりが寄り添うような雰囲気があった。そこから、平田の娘の死の原因となった犯人が判明し、平田が凶行に出る。最後まで、何か大きな仕掛けを期待してしまった。

■ストーリー

スーパーの保安責任者・平田は万引き犯の末永ますみを捕まえた。いつもは容赦なく警察に突き出すのだが、ますみの免許証を見て気が変わった。昭和60年生まれ。それは平田にとって特別な意味があった―。偶然の出会いは神の導きか、悪魔の罠か?動き始めた運命の歯車が2人を究極の結末へと導く!

■感想
非常に辛く悲しい物語だ。娘と妻を亡くし自暴自棄となる平田。同じく報われない境遇のますみが独り立ちできるようにと、何かと気にかける平田。平田の心のすさみ方は強烈だ。最愛の娘を事故で亡くし犯人が捕まらないまま時効を迎える。

悲しみにくれた妻は自殺し、平田自身も末期がんが見つかる。人生に悲観的になり、自分の資産をますみに援助する。平田とますみの関係は不思議だ。ただ、後は死ぬしかない天涯孤独の平田が、ますみを助けようとする気持ちは微かに感じることができる。

彼に殴られ金をとられながらも別れることができないますみ。典型的なダメ男に引っかかった女なのだが、ますみのダメ具合がすさまじい。仕事をしても失敗ばかり。万引きを許してもらった平田のことを気にして付きまとう。

平田に何度も金を援助してもらい、申し訳ない気持ちがありながら、彼と別れることができない。ますみの異常なまでのダメ具合に、何か秘密があるのでは?と変な深読みをしてしまった。平田の心境とますみの気持ちの変化がリンクしているようでもある。

先がない平田の一番の望みは、娘を事故死させた犯人を見つけ出すこと。それを知るますみは、思いもよらない行動にでる。正直、犯人が判明してからの平田の行動は納得できない。平田の行動によってすべてが不幸のどん底へと落ちていく。

ますみは頭が弱いにも関わらず、その時だけ異常に知恵が働き、平田が想像もしえないような仕掛けを作る。ラストに種明かしがあるのだが、あまりに悲しすぎる。誰を攻めることもできないが、これが不幸の連鎖の結末ということだ。

最後まで、大どんでん返しを期待してしまった。



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