悟浄出立 万城目学


 2015.5.21      愛すべき脇役たち 【悟浄出立】

                     
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■ヒトコト感想

中国の古典に描かれる脇役たちにスポットを当てた短編集。元ネタを知らないと楽しめないかもしれない。自分的には西遊記と三国志はよく知っているので楽しめた。が、その他の短編は、元ネタを知らないのでどこに面白さとしてのポイントがあるのかよくわからなかった。歴史的に有名な主役とは別に、脇役にスポットを当てるということなのだが、そもそもの主役がよくわからないと、辛いかもしれない。

西遊記の沙悟浄が常に皆の後ろを歩きながら考え続けること。沙悟浄にスポットを当てつつも、西遊記の世界を独特な文体で描いているので、それを読むのは面白い。猪八戒が今の姿になる前は、将軍として軍隊を率いていたことや、独自の解釈で西遊記のアナザーストーリーを描くのはすばらしい。

■ストーリー

俺はもう、誰かの脇役ではない。深化したマキメワールド、開幕! 砂漠の中、悟浄は隊列の一番後ろを歩いていた。どうして俺はいつも、他の奴らの活躍を横目で見ているだけなんだ? でもある出来事をきっかけに、彼の心がほんの少し動き始める――。西遊記の沙悟浄、三国志の趙雲、司馬遷に見向きもされないその娘。中国の古典に現れる脇役たちに焦点を当て、人生の見方まで変えてしまう連作集。

■感想
西遊記の沙悟浄の物語は秀逸だ。西遊記の中では最も存在感の薄い沙悟浄がどのような思いで旅を続けてきたのか。自分がイメージする西遊記の世界はドラマだが、その中での沙悟浄の位置づけと、必ずピンチになり、最後は悟空に助けてもらうという定番のパターンを面白おかしく描いているのが良い。

さらには猪八戒が、罰を受けて今の姿となっているだけで、昔は頭脳明晰な天才的軍師だったなど、イメージをくつがえす部分もあり面白い。西遊記を知る人であれば、間違いなく楽しめるだろう。

三国志の趙雲の物語もまた印象深い。趙雲と言えば若々しい見た目と圧倒的な強さを誇る武将というイメージだが、実際に蜀へ攻め込む際には50歳になっていたという衝撃。さらには、年相応に体にガタがきており、船酔いするなど、今までの三国志の趙雲のイメージからかけ離れている。

それでも、趙雲としての独特な魅力ある描かれ方をしているので、三国志ファンならば間違いなく楽しめることだろう。趙雲以外にも張飛や孔明など、おなじみのキャラとのやりとりもまた興味深い。当然ながら、三国志のキャラも歳をとる。それを実感させる短編だ。

その他の短編については、元ネタを知らないので、どこが面白いポイントかわからなかった。が、物語としては興味深い部分はある。司馬遷が処刑から逃れるために、宦官となった話は、そのいきさつはよくわからないが、宦官(男の玉を取る)となった父親と娘の関係というのが興味深い。

玉を取ることで、男性ホルモンが減衰するのか、体が丸くなり髭が薄くなり色が白くなる。実の父親が変わっていく姿を見る娘というのはどのような心境なのだろう。その他の物語も、元ネタを知らなくとも純粋に物語としての面白さはある。

中国の古典に詳しければより楽しめるだろう。



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