銀行仕置人 池井戸潤


 2015.8.20      視点が変わればキャラも変わる 【銀行仕置人】

                     
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■ヒトコト感想

巨額融資が焦げ付き、その責任を取らされる形となった黒部。人事部付でエリートコースからリストラ対象へと格下げされたのだが…。人事部という立場で銀行の不正を暴く。作者の他の作品では悪役として描かれる人事部を、正義の人事部として描いている。立場が変われば言い分もイメージも変わる。

黒部が支店の不正を暴くために臨店するのは、まさしく半沢直樹シリーズで言うところの、「やっかいなこと」だ。人事部として強権を発動し、不正を暴く。黒部は銀行内部に巣くうウミを絞り出す役目をはたしている。他者と共謀することで、様々な不正を行うことができる銀行だけに、そのチェックは厳しくなる。まるで公安警察のように内部をひそかに調査する黒部の物語だ。

■ストーリー

通称“座敷牢”。関東シティ銀行・人事部付、黒部一石の現在の職場だ。五百億円もの巨額融資が焦げ付き、黒部はその責任を一身に負わされた格好で、エリートコースから外された。やがて黒部は、自分を罠に嵌めた一派の存在と、その陰謀に気付く。嘆いていても始まらない。身内の不正を暴くこと―それしか復権への道はない。メガバンクの巨悪にひとり立ち向かう、孤独な復讐劇が始まった。

■感想
一度はエリートコースをひた走り、期待される人材だったはずが、騙され五百億もの負債の責任を取らされることになった黒部。人事部付きで、座敷牢とよばれる場所でひたすら単純作業を繰り返す。そんな境遇の黒部を人事部長が引き上げ、社内のウミを出す役目を命じる。黒部が調査する過程で様々な不正が暴かれていく。

銀行の担当者と、融資先の企業がグルになれば、様々な不正を働くことが可能となる。私利私欲のため、会社を倒産させないため。様々な理由があるにせよ、黒部が臨店し調べ不正を暴く。まるでマルサのような雰囲気かもしれない。

黒部が関わる様々な不正の中で、最も衝撃的なのはNPO法人の短編だ。倒産目前の企業に町金が金を貸し、最終的には倒産する。債権者に追い立てられた経営者は、NPO法人に助けを求める。そこでは親身になり借金を減らす交渉をする。

その交渉相手の中には銀行も含まれるのだが…。銀行やその他の債権者たちには借金を棒引きさせ、自分たちが儲けられるよう様々な仕掛けを作り上げる。善意の第三者的な顔をしながらも、弱い物に食らいつく。最もたちの悪い者たちかもしれない。

人事部付というのは、銀行員にとって宙ぶらりんの立場らしい。いつ出向させられるかわからない。他の行員たちから憐れみの視線を送られる立場だ。そんな黒部が、人事部付として支店へ臨店する。元エリートで落ちぶれた後に臨店するというのは、まさに半沢直樹シリーズで「いけ好かない奴」というイメージで描かれていたキャラだ。

それが、黒部側の視点に立つとこうもキャラの雰囲気が変わるのかと驚いてしまう。作中でも黒部に対して、臨店される側の行員たちが何かと不協力な態度を示す場面が多々ある。まさに立場の違いというのを感じさせられる場面だ。

作者の作品は様々な視点で描かれているので面白い。



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