銀行狐 池井戸潤


 2015.3.8      現金その場限り 【銀行狐】

                     
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■ヒトコト感想

銀行がらみの短編集。銀行の仕組みをたくみに利用したミステリアスな展開が面白い。融資の知識や企業倒産や手形の仕組みなど、元銀行員である作者だからこそ描ける作品だろう。一般人にはあまりなじみのない部分は詳しい説明があるので、専門用語だらけで混乱するようなことはない。

本作の短編の中には、銀行に勤めているからこそできることがある。特に他人の預金や個人情報などをあっさりと見ることができるのは、銀行員の特権だろう。本作を読むと、銀行員にはなんでも知られているのだろうと少し恐ろしくなる。普通預金口座の入出金で日々の生活の様子まで想像されるのは恐ろしい。少し銀行員を見る目が変わってしまうような作品だ。

■ストーリー

狐と署名された脅迫状が、帝都銀行頭取宛に届けられた。「あほどもへ てんちゅー くだす」。具体的な要求はないが、顧客情報漏洩、系列生保社員の襲撃と犯行はエスカレートする。狐の真意と正体は?(「銀行狐」)。元銀行マンの江戸川乱歩賞作家ならではの緻密でスリリングな表題作ほか、5編収録の短編集。

■感想
本作で最も印象深いのは「現金その場かぎり」だ。銀行の入出金が合わない。となると窓口業務を担当する者たちのミスを疑われることになる。多額の現金を扱う窓口業務の者は、何か仕掛けを用いれば、足のつかないまま現金を手に入れることができるのか。

現金その場かぎりという言葉は印象深い。一度、銀行から出てしまった現金は、名前が書いているわけではないので、元どこにあったかなど証明できない。しっかりとしたセキュリティ対策がとられていたとしても、銀行員がその気になれば、いかようにも不正は行えてしまうのだろう。

「銀行狐」は表題作でもあり、銀行への復讐というスリリングな物語だ。復讐されるほど銀行員は恨まれるのか?というのが一般人の印象だが、本作を読むと、悪意がなくとも相手に恨まれる可能性はあると思えてしまう。

融資のありなしにより、その会社の生きるか死ぬかが決まる。それは人の人生に関わることだ。それらを左右する権利を持っているのが銀行員だ。本短編では、無理な保険商品を売りつけた結果なのだが、そうでなくても、銀行員が利用者に恨まれることは十分にありえると思えた。

「ローンカウンター」は強烈だ。銀行員が少し細工をすれば、他人の個人情報をすべて手に入れられるだけでなく、相手の連絡先を手に入れ、個別に家に訪問することもできる。ATMを使っていて、トラブルが起きたら、銀行員の言いなりになるのはしょうがないことだ。

一般人は、どこか銀行員を聖人化しているかもしれない。まさか銀行員が金を盗むとは。まさか銀行員が個人情報を不正に利用するとは…。本作はあくまでフィクションであり、実際にはそう簡単に預金者の情報は手に入れられないとは思うのだが…。不安になるのは確かだ。

悪意ある銀行員に出会った瞬間、とんでもないリスクがあることはわかった。



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