幻肢 島田荘司


 2015.12.9      人間の脳は錯覚を見せる 【幻肢】

                     
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■ヒトコト感想

肘から下を切断した人が、まるで元どおりに肘から下があるようにふるまうことを幻肢というらしい。人間の脳は電気信号によりいかようにもごまかすことができる。技術的な裏付けはさておき、人間の脳の未知の部分をテーマとした作品は非常に興味深い。人間の手足のように、それが無くなると命の危険さえ出てくる場合は、脳が錯覚を見せる

交通事故で大けがを負った遥は、一時的に記憶を無くすが、死んだはずの恋人の姿を見ることになる。物語は明らかに遥の記憶喪失に鍵があるという流れとなる。周りの者たちが結託して遥を騙しているような雰囲気すらある。否が応でもオチの流れを期待してしまうのだが…。オチはかなりあっさりとしたものとなっている。

■ストーリー

医大生・糸永遥は交通事故で大怪我をし、一過性全健忘により記憶を失った。治療の結果、記憶は回復していくが、事故当時の状況だけがどうしても思い出せない。不安と焦燥で鬱病を発症し自殺未遂を起こした遥は、治療のためTMSを受けるが、治療直後から恋人・雅人の幻を見るようになり…。

■感想
事故で記憶を失った遥は事故の記憶を思い出すことができない。そして、恋人の雅人を失ったショックもあり自暴自棄となる。事故で死んだはずの雅人を幻覚のように見る遥。これこそが、幻肢ということになる。

脳のある部分に電気的刺激を与えることで、そこに存在しはないはずの人物を見ることができる。そればかりか、会話までもできる。明らかに遥の脳内で完結されている出来事だ。人間の脳の神秘を描きつつ、遥が遭遇した事故や、雅人がどうなったかなどの決定的な部分はぼやかされている。

遥の周りの人物たちが、遥を腫物でも触るような扱いをし、何かを隠しているようなそぶりをする。遥の事故の秘密が本作のメインなのだろう。少しずつ回復していく記憶。ただ、何かしら思い出してはならない記憶が遥には隠されているような流れがある。

脳に電気的刺激を与えることで、恋人であった雅人の幻覚を見て、まるで雅人がその場にいるかのように会話をする。人間の脳には都合の悪ことは消し去り、自分に都合の良いことしか思い出さないという機能もあるのだろう。

遥の事故の顛末は特別インパクトがあるわけではない。遥が事故にあうまでの出来事を思い出す過程で、雅人の存在は外すことはできない。ただ、すべてが明らかになった時、期待したほど衝撃がないのは事実だ。

幻肢の話を全面に押し出していただけに、もっと根本的に遥の体には何かが欠けているのかと思っていたのだが…。ミステリーを読みすぎていると、時に余計な深読みをしてしまう場合がある。その深読み以上の結末でないと…。わりと平凡だという印象しか残らない。

脳の機能の部分は興味深く読むことができた。



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