不祥事 池井戸潤


 2015.10.10      組織の理論をぶち壊す花咲舞 【不祥事】

                     
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■ヒトコト感想

銀行内で巻き起こる様々な問題をメッタ切りにするのは、若い女子行員だ。今までの作者の作品の中にはないパターンだ。花咲舞が問題を抱えた支店をまわり改善を指導する。男の銀行員とは立場が異なり、窓口業務を担当する営業行員が、様々な問題に直面する。トラブル内容としては、作者の銀行系のトラブルではおなじみの内容だ。

作者の他作品で読んだようなエピソードもある。もしかしたら、こちらの方が元祖なのかもしれない。それでも主人公のキャラクターが一般行員であり、強気な女性の花咲舞であることが、作品の雰囲気を大きく変えている。本音と建て前を分けるエリート行員ではない、青臭い主張を強引にアピールするのが舞の特徴だろう。

■ストーリー

「ベテラン女子行員はコストだよ」そう、うそぶく石頭の幹部をメッタ斬るのは、若手ホープの”狂咲”こと花咲舞。トラブルを抱えた支店をまわり(=臨店)、業務改善を指導する舞は、事務と人間観察の名手。歯に衣着せぬ言動で、歪んだモラルと因習に支配されたメガバンクを蹴り上げる!

■感想
”狂咲”こと花咲舞が暴れまわる。ドラマ化されているので、ドラマのイメージで読んでしまった。業務改善を指導する立場の舞が、支店が抱える様々なトラブルを解決していく。銀行の支店のトラブルというと、作者の作品ではおなじみのパターンだ。

ネタ的には作者の他作品とカブる部分が多い。不正な取引や、権力争い。保身による隠ぺい工作や、ライバルを陥れるための卑劣な手段。それらを舞が無鉄砲な行動で調査し、辛辣な言葉を相手に浴びせかける。

この手のパターンは作者の他作品でも存在する。ただ、本作ではその主人公が若い女子行員ということが特徴だ。今までは、副支店長なり、融資課の元エリートだったり、総務の特命課だったりと、それなりの地位にいる中年男が主人公のパターンばかりだ。

若いヒラの女子行員となると、目線や主張がエリートたちとは大きく異なる。舞が弱い立場の味方というのは当然のこととして、幹部たちに対しても臆することなく噛みついていく。その姿にオロオロするのが、舞の上司の相馬という定番パターンとなっている。

痛快な短編が多いのは確かだ。舞が語るのは歯切れの良い言葉ばかり。組織の理論や、出世のための保身などいっさいない。ただひたすら自分が正義と思う方向へと突き進んでいく。となると、組織の理論を振りかざす者たちからすれば、邪魔者でしかない。

舞の言葉は非常に青臭く綺麗ごとのように聞こえてしまう。このキャラクターだからこそ許されるというのもあるのかもしれない。トラブルのパターンが同じでも、解決する人物のキャラクターが異なると、こうも印象が変わるのかと驚かされる作品だ。

弱い立場の者が、強い立場の者へ逆襲する。まさに、作者の作品の真骨頂だ。



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