ふる 


 2018.2.6      誰かを傷つけた自分を見るのが怖い 【ふる】

                     
ふる (河出文庫) [ 西加奈子 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
花しすという名前からして変わっているが、職業がAVのモザイクがけというのも強烈だ。花しすの同僚や友達などからすると、花しすは俗にいう癒し系なのだろう。典型的な日本人というか、言いたいことがあっても和を乱さないよう我慢する。印象的なのは、花しすが誰かを傷つけた自分を見るのが怖いといった部分だ。

誰もが覚えがあるだろう。人を傷つけたくないからあいまいな態度を示す。周りからは「優しい」と言われる。花しすは本当の優しさではないと知りつつ、そのことに悩む。共感できる女子は多いかもしれない。モザイクがけという職業の特殊さはあるが、どこにでも存在する普通の優しい女子の内面がよくわかる物語だ。

■ストーリー
池井戸花しす、二十八歳。職業はアダルトビデオへのモザイクがけ、趣味はICレコーダーでの隠し録り。「いつだってオチでいたい」と望み、過去を愛おしみ、誰の感情も害さないことにひっそり全力を注ぐ毎日だった。だがそんな彼女に訪れた変化とは―。過去、現在、そして未来が、新しい「今」とつながる、奇跡の物語。

■感想
AVのモザイクかけが仕事で趣味が会話の隠し撮りというのはかなり強烈だ。しかし、花しすは周りからはごく普通の優しい女と見られている。西加奈子独特のキャラクターだろう。ただ、職業や趣味は強烈だが、中身は等身大?の女性である。

誰かを傷つけることを極端に避ける性格。本当の優しさが何か判っているにもかかわらず、一歩ひいていしまう花しす。男からすると、厳しくズバズバと言う女性よりは、どこか控え目でおっとりと優しい癒し系に惹かれてしまう。

ストーカー的な趣味がある花しす。日常の音をこっそり録音するのは明らかに異常だ。帰ってからその音を聞いて楽しむ。過去を楽しむのか、もしかしたら映像を撮影することや写真をとることと同じなのかもしれない。音を聞いてその時どのようなことが起こっていたかを想像する。

ちょっと興味はある。意外にやってみたら面白いのかもしれない。例え少しでもそう思ったとしても、それを実行しようとは思わない。ちょっと異質な感じが西加奈子っぽさをアピールしている。

人間関係や生きていく上での環境というのは、かならずそこになんらかの感情が入りこむことになる。人を傷つけたくない、人に嫌われたくない、そんな思いが強烈に強いのが花しすなのだろう。「いつだってオチでいたい」というのは、まさにいじられて終わりたい。

いじる側にはまわりたくないということなのだろう。強烈な個性をもつ職場の同僚たちに翻弄されながら、花しすが今を生きる。共感できる女性は多いかもしれない。男はもしかしたら少しがっかりとするかもしれない。

「優しい」とよく言われる人は、共感できるかもしれない。



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