ふくわらい 


 2017.9.28      強烈すぎる個性のキャラクター 【ふくわらい】

                     
ふくわらい [ 西加奈子 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
鳴木戸定の物語。幼い頃から父親に連れられあちこち旅に出る定。不器用で、ある意味世間の常識からはうとい定だが、その丁寧さには驚かされる。まるで生まれたての子供のように知らないことを純粋な気持ちで相手に質問する。編集者としての定の周りにいる人物たちは強烈な個性を放っている。身なりに構わず純粋に生きる定。プロレスラーの守口とのやりとりは秀逸だ。

本作に登場する人物たちはみなどこか純粋で憎めない。定に対して「先っちょだけ」とSEXを迫る盲人の次郎にしても、それは純粋な気持ちが高まった上でのことだ。見た目にこだわらず純粋に気持ちだけで前にすすむ。なんだかほっこりとした読後感を感じることのできる作品だ。

■ストーリー
マルキ・ド・サドをもじって名づけられた、書籍編集者の鳴木戸定。 彼女は幼い頃、紀行作家の父に連れられていった旅先で、誰もが目を覆うような特異な体験をした。 その時から彼女は、世間と自分を隔てる壁を強く意識するようになる。

愛情も友情も知らず不器用に生きる彼女は、愛を語ってくる盲目の男性や、必死に自分を表現するロートル・レスラーとの触れ合いの中で、自分を包み込む愛すべき世界に気づいていく。

■感想
破天荒な父親と共に旅をして育ってきた定。不細工で性格も変わっており、周りからはロボットだと言われたりもする。極端に世間の情報から疎く、アントニオ猪木を知らなかったり、セックスのことを性行と言ったり。万人に好まれるタイプではないが、そのまっすぐな性格は読んでいて心地良い。

わからないことはわからないと言い、気になることは気になると言う。まるで幼稚園児のように思ったことを素直に口にする。それでいて自分がモテないタイプだということを気にすることなく、父親の死肉を口にしたりもする。

書籍の編集者として定は有能だ。くそまじめともいえる性格が良いのだろう。新たに担当することになったプロレスラーの守口とのやりとりは秀逸だ。本作では登場人物たちの言葉にイチイチ感動してしまう。当たり前のことかもしれないが、それを口に出すのがすごい。

プロレスは10代の時にはまらないと熱中できないだとか、定と守口の会話はかみ合っていないようでしっかりと通じ合っている。守口が世間知らずの定に対していちいち大学をでているのに、というのが妙に面白い。

定の事を愛する盲目の次郎。いきなり定のことを美人という。盲目だから当然姿は見えない。それでも次郎からすると定は美人らしい。次郎はひたすら定に対して求愛し「先っちょだけ」とセックスしようとする。ただやりたいだけかと思いきや、そうではなく、愛しているからやりたいと熱弁する。

その勢いはすさまじく、まさに人間の本能に忠実なのかもしれない。大抵女性は嫌がるのだが、定は次郎の純粋な愛に答えることになる。決してモテるタイプではなく、ロボットのような性格の定が幸せになるのは最高に気持ち良い。

このキャラクターたちはすさまじく良い。



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