炎上する君 西加奈子


 2017.1.2      独特な世界観に入り込めるか 【炎上する君】

                     

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■ヒトコト感想
ちょっと奇妙な短編集。独特の世界観は、入り込むことができないと読むのは辛いだろう。表題作でもある「炎上する君」などは、普通に考えれば炎上というのはネット上の炎上をイメージするだろう。それを逆手にとって、実際に足が炎に包まれた男のことを炎上する君としている。常識を持ち出してはいけない類の短編集だ。

その他には、体が風船のように膨らんでいく話や、拾った携帯電話から自分宛てにメッセージがくるなど、特殊な状況ばかりだ。「トロフィーワイフ」は、何かを暗示しているような雰囲気すらあるが…。貧乏をしていた男が売れて有名となり、若い女に走る。その女のことをトロフィーワイフと言うなんてのは知らなかった。

■ストーリー
散歩中に拾った、自分と同じ機種の携帯電話。その携帯に届いたメールに何の気なしに返信した私は、返ってきた温かいメールに励まされ、やがて毎日やりとりを始める―(「空を待つ」)。我々は足が炎上している男の噂話ばかりしていた。ある日、銭湯にその男が現れて―(「炎上する君」)。何かにとらわれ動けなくなってしまった私たちに訪れる、小さいけれど大きな変化。奔放な想像力がつむぎだす愛らしい物語。

■感想
「空を待つ」は、拾った携帯に届いたメールの内容が、まるで自分のことをどこかで見ているようなメールとなっている物語だ。拾った携帯に着信するメール。それにお遊びのつもりで返信すると、たちまちメールのやりとりが続くことになる。

見ず知らずの他人が使っていた携帯に届くメール。それが自分を励ますような内容であれば、偶然の一致だとしても、まるで神様が自分を励ますためにメールをしているような気持ちになる。非現実的だが、本作の短編集の中ではわりかし現実に近い内容だ。

「炎上する君」は、まさに文字そのままに足が炎に包まれている男に恋をする物語だ。女らしく男に媚びるようなことを極度に嫌う二人の女子が、ある男に熱烈な恋をする。それが足を炎に包まれた男だ。炎上という言葉を使うことに意味があるのだろう。

足の摩擦によって炎が噴き出すというのもよくわからない。物語は足が炎上する男をそのまま描いており、男に興味のなかった女二人が段々と女に目覚めていく物語となっている。非常によくわからないというのが正直な感想だ。

「ある風船の落下」は強烈に印象に残っている。突然体が膨らみだし、空中に浮かぶ。かと思うとある日突然、急に空高く舞い上がり死んでしまう。体が膨らむ奇病から始まる物語。自殺とも違うが、空へと浮かび上がる瞬間を、まるで憧れの自殺方法かのような扱いとなる。

体が膨らみ始めると、もう止めることはできない。そして、飛び上がる瞬間。段階を踏み、家族が悲しみにくれるなど、どこか不治の病の雰囲気もある。このありえない展開が、なぜか非常に現実的に思えてくるから不思議だ。

世界観にはまり込むことができれば、楽しめるだろう。



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