永遠の僕たち


 2015.7.28      死が身近なカップル 【永遠の僕たち】

                     


■ヒトコト感想

臨死体験をしてから奇妙な体験をする少年・イーノック。死の世界から来た青年・ヒロシと会話するイーノック。死を身近に感じたイーノックは、他人の葬式を覗くことを趣味とする。そこで出会った余命わずかな少女・アナベル。イーノックとアナベルのせつない恋模様を描いた作品。この手のパターンとして、死が迫るヒロインに対して、イーノックとの特別なやりとりがあるわけではない。

出会って間もない恋人同士が、お互いの時間を大事にしつつも、恋人との時間を過ごす物語だ。イーノックにしか見えないヒロシがポイントなのだろう。いずれ死ぬアナベルと、すでに死の世界にいるヒロシ。周辺の雑音を気にせずアナベルと付き合うイーノックの気持ちと、アナベルの気丈な振る舞いに心打たれてしまう。

■ストーリー

交通事故で両親を失い、臨死体験をした少年・イーノック。話し相手は、彼だけが見える死の世界から来た青年・ヒロシだけだった。他人の葬式をのぞいて歩くことを日常とする死にとらわれた少年は、そこで余命3か月と告げられた少女・アナベルと出会う。

ヒロシがそっと見守る中、死が結びつけた2人。生きるということは、愛するということは、いったいどういうことなんだろう?秋から冬へと向かう鮮やかな街の景色が、わずかな時間しか残されていない2人をやさしく包み込み、恋人たちとヒロシの世界が輝きはじめる。

■感想
臨死体験をしたイーノックと、日本の青年兵士の恰好をしたヒロシの会話が面白い。明らかに偏見が含まれたヒロシの描写である。神風特攻隊にいたであろうヒロシと、イーノックの会話には、死を超越した何かがあるように思えて仕方がない。

イーノックはどこか死に対して鈍感になり、死の悲しみを思い出すために他人の葬式へと顔をだしているだろうか。アナベルと出会い、そこからイーノックの表情や行動も明らかに変わってくる。ヒロシの言葉も、アナベルとイーノックの関係を冷やかすような言葉となるのが良い。

死に別れを待つ恋人のような悲壮感はない。中盤まではアナベルが余命わずかということを感じる描写はない。ただ、若いカップルの楽しげな日常が描かれている。アナベルの姉にイーノックの状況をとがめられたり、アナベルと付き合うことの覚悟を求められたり。

このあたりはまさに普通のカップルだ。そこから、アナベルが死へ近づいている描写が続くと、物語のトーンは一気に下がっていく。死が近づくアナベルのことを語るヒロシ。取り残されるイーノックの心境を表すように、物語の雰囲気は暗くなる。

アナベルの死の後、イーノックの表情はやけに晴れやかに見えてしまう。死の世界でヒロシとアナベルのふたりが仲よくなっているという流れなのだろうか。「世界の中心で愛を叫ぶ」的な、余命わずかな恋人の死に対して男側が叫ぶというような熱い物語ではない。

イーノック自身が一度臨死体験しているだけに、死に対する向き合い方が普通ではない。さらには、ヒロシという死の世界の住人と常に会話できる状態のため、イーノック自身が死を恐れていないのだろう。

熱い恋物語を想定していた人には、物足りないかもしれない。



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