大統領の執事の涙


 2015.10.24      強烈な黒人差別の歴史 【大統領の執事の涙】

                     


■ヒトコト感想

アメリカの黒人差別を描いた作品。実話を元にしており、実際の映像を交えることで臨場感を高めている。南北戦争時期の黒人差別のすさまじさは強烈だ。ある程度知っているつもりでいたが、物語として映像を交えられると、強烈なインパクトがある。差別に抵抗しようと無抵抗主義を貫く場面は強烈だ。別の場面では、セシルが忠実な執事として大統領の身の回りの世話をする。

執事として使うことが、どこかで奴隷制度を引きずっているような雰囲気すらある。父親が大統領の執事であり、白人に忠実な黒人の見本のような人物でありながら、息子は差別撤廃のため戦い続ける。この対比が非常に効果的に描かれている。セシルの家庭がバラバラになる場面では、心が無性に苦しくなる。

■ストーリー

綿花畑の奴隷として生まれたセシル・ゲインズは、見習いからホテルのボーイとなり、遂には、ホワイトハウスの執事にスカウトされる。キューバ危機、ケネディ暗殺、ベトナム戦争・・・アメリカが大きく揺れ動いていた時代。セシルは、歴史が動く瞬間を、最前で見続けながら、忠実に働き続ける。黒人として、そして、身につけた執事としての誇りを胸に。

そのことに理解を示す妻とは別に、父の仕事を恥じ、国と戦うため、反政府運動に身を投じる長男。兄とは逆に、国のために戦う事を選び、ベトナムへ志願する次男。世界の中枢にいながらも、夫であり父であったセシルは、家族と共に、その世界に翻弄されていく。彼が世界の中心で見たものとは?

■感想
子供のころは奴隷農場で悲惨な生活を送っていたセシル。そんなセシルが、屋敷内の手伝いから始まり、ホテルのボーイとなり、最後には大統領の執事までのぼりつめる。黒人差別が激しい時代のアメリカを、実在の映像を交えながら描いている。

大統領の執事として、保証された生活を送るのは、子供のころの奴隷生活とは比べ物にならないはずだ。セシルは執事の仕事に満足するが、家族や子供たちは、安定した生活がベースにあるために、さらに上の黒人差別の改革を目指そうとする。少しずつ変化していく流れが面白い。

過去のアメリカで、これほど強烈な黒人差別があったのかと驚かされる。食事をする際には、有色人種専用の席があり、そこ以外は座ってはならない。それが当たり前の社会であり、大統領が何代か変わろうとも、そこまで大きな変化があるわけではない。

ケネディ大統領やキング牧師など、実在の人物をからめながら、アメリカの差別の歴史が描かれている。ベトナム戦争で次男が死に、長男は反政府運動に力を注ぐ。セシルの家族がバラバラになる場面は心が痛くなる。

黒人差別の歴史が描かれているのが面白い。セシルが大統領の執事ということで、セシルが仕えた歴代の大統領ごとに黒人差別に対する考え方が違うのには驚いた。差別を強烈に非難する大統領もいれば、特に何もせず無関心を装う大統領もいる。

今では、公には差別はないということになっている。初の黒人大統領が誕生したというのも、物語の最後に特徴的な場面として描かれている。日本では考えられない世界ではある。が、差別の歴史を実感するのにはとても良い作品なのは間違いない。

強烈な歴史的事実には、驚かずにはいられない。



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