Classical Fantasy Within 第3話 島田荘司


 2015.7.11      劣勢な戦局を打開する新兵器 【Classical Fantasy Within 第3話】

                     
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■ヒトコト感想

前作から怪力光線砲により様子がおかしくなった母親との関係が描かれている。「ぼく」の周辺で巻き起こる出来事は、戦時中、ジリ貧となった日本の閉塞感がそのまま表現されている。戦争に反対する者に対しての容赦ない攻撃。英語教師であり、翻訳を仕事とし、モンペを履かず常にスカートを履く「ぼく」の母親は周りから目の仇にされる。

「ぼく」の視点からすると、ある時は突然子供のように無邪気になり、ある時は恥じらいを忘れ自由奔放となる。読者からすると、なぜ?という思いが解消されることはない。「ぼく」が感じる疑問はそのまま読者の疑問に繋がることになる。本作の終盤では、怪力光線砲に代わる火龍という強烈な戦闘機が登場するが、それも一時的なものでしかない。

■ストーリー

ついに筑波の空を襲うB29の大群。轟音を響かせて投下される焼夷弾の嵐の中に、「ぼく」と「母」は取り残される!日本陸軍の最新秘密兵器にして「生命体の複製」を作る機械・怪力光線砲も、天を焦がすまでの圧倒的な火力によって脆くも焼け果てていくが―。

■感想
物語の全容が見えないというのが正直なところだ。特殊な兵器により敗戦濃厚の日本が逆転勝利するという流れなのか、それとも戦時中にしいたげられた「ぼく」が特種な経験をするとうい物語なのか。怪力光線砲で、人が複製されるという衝撃的な出来事のあと、複製に失敗した「ぼく」の母親の様子がおかしくなる。

母親と「ぼく」の交流だけでは終わらず、怪力光線砲に代わる火龍というジェット戦闘機が登場する。我が物顔で日本を爆撃し続けてきたB29に一矢を報いることができる特殊な戦闘機だ。

火龍のすばらしいスピードと圧倒的な戦闘力でB29を次々と撃墜する。が、悲しいかな日本には燃料と弾薬がないため、火龍を有効活用できない。「ぼく」と戦争時の日本の状況が複雑に絡みあい、事態は不可思議な状況へとうつっていく。

「ぼく」の周辺の人々が次々と死んでいくのが物語のポイントかもしれない。火龍の性能を活かすことができれば、劣勢な戦局を打開できるかもしれない。「ぼく」が感じる悔しさというのは、そのまま他の登場人物たちの行動により表現されている。

生命の複製が可能なマシンと圧倒的性能を持った戦闘機。ただ、「ぼく」の周辺では昔のような平和な日常は戻らない。母親の様子がおかしいことについて、なんらはっきりとした説明は示されない。奇妙な状態のまま、物語は進んでいき、「ぼく」の心は不安定なまま日本は敗戦へひたすら突っ走っている

先が見えない状態で、日本を大逆転勝利へ導くような新兵器が登場するとは思えない。かと言って、怪力光線砲をもう一度使い、事態を打開できるとは思えない。

物語の先行きがまったく見えないのが不安でしょうがない。



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