望郷 湊かなえ


 2016.11.24      都会に憧れる者たちの短編ミステリー 【望郷】

                     

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■ヒトコト感想
白綱島を舞台にした短編集。島は田舎で、都会に出て行った者が帰ってくることで事件が巻き起こる。どことなく島は田舎でダメ、対して都会はすばらしいという幻想が登場人物たちにある。複雑な人間関係をベースとして、ある事件の流れを読者に想像させ、結果としてその想像を裏切る結果を示す。短編なので余計な人物描写がなく、非常に読みやすい。

登場人物も絞られているため、混乱することがない。生まれ育った島に対するそれぞれの思いの違いが、すれ違いを生み事件を起す。陰鬱な物語もあれば、あっと驚くようなラストもある。それぞれの短編が切れ味鋭く、テーマが一貫しているので、強く印象に残る。ミステリー小説の短編として非常に優れていると思った。

■ストーリー
暗い海に青く輝いた星のような光。母と二人で暮らす幼い私の前に現れて世話を焼いてくれた“おっさん”が海に出現させた不思議な光。そして今、私は彼の心の中にあった秘密を知る…日本推理作家協会賞受賞作「海の星」他、島に生まれた人たちの島への愛と憎しみが生む謎を、名手が万感の思いを込めて描く。

■感想
印象的なのは、「海の星」だ。「おっさん」と呼ばれた男との交流。父親が行方不明となり残された母親に言い寄るおっさん。息子からしたら複雑な思いがわいてくる。回想ベースの本作。現在であっと驚く真実が語られる。

回想では父親の行方が知れないまま、ただひたすら待ち続ける母親へ言い寄ろうとするおっさんはあまり良い印象はない。子供から見たおっさんの行動は下心がありいい気持ちはしないだろう。が、真実を知ると…。読者の誘導がうまい。子供から見たおっさんの描写がすばらしい。その後のネタばらしも良い。

「みかんの花」は、島と母親を捨てた姉が有名作家となり島に戻ってくる物語だ。島に残された者は貧乏くじを引いており、島から出て行った者は好き勝手にやっているという、はっきりとした線引きがされており、島に住む者の卑屈な思いが伝わってくる。

旅人と駆け落ちのような形で東京へ旅立った姉。残された妹は、母親の面倒を島で見るしかない。姉は何かしら秘密が暴かれることを恐れて島に帰ってきた。それを妹は想像するのだが…。ミステリー部分はさておき、妹の鬱憤が噴出すような物語だ。

「雲の糸」も、虐められっ子だった黒崎が有名歌手となり、島に呼ばれるという物語だ。島を出て成功した者に群がる島の人々。過去のことはすべて忘れたかのようにふるまう。が、黒崎自身は自分がイジメられていたことを忘れてはいない。

小さな島出身の有名人となれば、それだけで注目を浴びる存在となる。まして有名人が島に帰ってきたとなると…。物語の根本にあるのは、島の人々の歓迎が一時的であり、その熱狂はすぐに冷めるだろうと黒崎が認識しているところだ。よくある芸能人の地元凱旋エピソードに近いかもしれない。

短編としてテーマがはっきりしているため、非常に読みやすい。



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