母性 湊かなえ


 2016.8.18      娘に嫌われていると考える母親 【母性】

                     
母性 [ 湊かなえ ]
湊かなえおすすめランキング
■ヒトコト感想
母親と娘それぞれの視点で描かれる物語。作者得意の独白形式で、そこに第三者目線が入ることで事件の全容がみえてくる。女子高生が倒れていたのは、自殺未遂なのかそれとも事故か、または…。母親が考える幸せの形と、娘の考えの違い。母性というタイトルどおり、母親が子供にそそぐ愛情について描かれている。

母親の母性とは生まれながらにしてあるものなのか、それとも社会性から作り上げられるものなのか。娘に嫌われると思い込む母親と、母親の理想とする娘になれないと苦悩する娘。夫との関係や夫の家族との関係など、読んでいて思わず怒りを覚えるようなキャラクターもいる。そこまで感情移入できるのは、作者の筆力がすばらしいからだろう。

■ストーリー

女子高生が自宅の庭で倒れているのが発見された。母親は言葉を詰まらせる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」。世間は騒ぐ。これは事故か、自殺か。……遡ること十一年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い去られていた。母の手記と娘の回想が入り混じり、浮かび上がる真相。これは事故か、それとも――。圧倒的に新しい、「母と娘」を巡る物語。

■感想
自宅の前に倒れていた女子高生は自殺なのか。その謎を解くカギは母親の手記にある。まずは母親がどのような環境で育ち結婚したかが描かれている。ごく普通の平凡な家庭と思わせておきながらそれぞれの心の奥底には様々な思いがある。

母親が自分をよく見せようと常に他人が求める行動をとろうとする。そして、娘に対してもそのように教育する。母親の考え方は特別極端なものではない。が娘に好かれようとする思いの中には、自分が母親からどう見られるかという複雑な思いがある。

本作では、母親の周辺が濃密に描かれているが、夫の両親と同居するあたりから強烈な流れとなる。特に夫の母親と小姑でもある夫の妹の存在だ。夫の家族との関係がうまくいかないのは、ありがちなことかもしれない。ただ、その内容は壮絶だ。

娘視点での流れでは、自分の母親が父親の家族からひどい目にあわされていることへの激しい怒りが伝わってくる。このあたり、読者も同じく身勝手な家族たちに怒りを感じることだろう。読者にまで怒りを共感させる作者の筆力はすばらしい。

本作はミステリーとは違う。結局のところ、ことの真実はあっさりと判明する。第三者の目線が絡むことで、不可解な状況のように思わせてはいるが…。物語は突如として成長した娘の視点へとうつっていく。ここでどのような流れになっていかたに気づく。

ミステリーというよりも、母娘関係を描いた作品だろう。娘をもつ母親よりも、これから結婚しようというような人が読めば、何かしら感じるものがあるかもしれない。純粋に母親が娘から嫌われているかも?なんてことを常に感じる場面は少ないだろう。

母性とはどのようなものか、考えさせられる作品だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp