バベル九朔 万城目学


 2016.11.3      小説家志望者に現実を直視させる 【バベル九朔】

                     

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■ヒトコト感想
雑居ビルの管理人をする作家志望の男・九朔。突如として巨大な塔の世界に入り込んでしまう。無駄なことを吸収して巨大化する棟・バベル。小説家志望というのが、いかに無駄なことかを思い知らせるための物語に思えなくもない。九朔が迷い込んだ世界は、誰が敵か味方かはっきりしない。全身黒ずくめの「カラス女」の怪しさか、九朔の祖父であり雑居ビルの創設者でもある大九朔の陰謀なのか。

現実の雑居ビルとバベルがリンクする場面は強烈に面白い。過去に雑居ビルに入居していた店が、バベルの中で積みあがっていく。万城目学お得意のわけのわからない不思議な世界観でありながら、言いたいことはわかる。小説家志望というのは、他者から見ると、ただ遊んでいるようにしか見えないのだろう。

■ストーリー
作家志望の「夢」を抱き、 雑居ビル「バベル九朔」の管理人を務めている俺の前に、ある日、全身黒ずくめの「カラス女」が現われ問うてきた……「扉は、どこ? バベルは壊れかけている」。巨大ネズミの徘徊、空き巣事件発生、店子の家賃滞納、小説新人賞への挑戦――心が安まる暇もない俺がうっかり触れた一枚の絵。

その瞬間、俺はなぜか湖で溺れていた。そこで出会った見知らぬ少女から、「鍵」を受け取った俺の前に出現したのは――雲をも貫く、巨大な塔だった。

■感想
仕事を辞め雑居ビルの管理人としてダラダラ生活する九朔。ただ、九朔には小説家になるという夢がある。というパターンだと、小説家志望という夢をすべての言い訳にしているように思えてくる。本作の九朔も自分自身でそこまで小説家になれるとは思っておらず、ただ惰性で小説を書いているような感じだ。

心血を注いで書き上げた長編にしても、カラス女の邪魔により出版社へ送ることができない。そして、謎のバベルに引き込まれる九朔。バベルと雑居ビルとの関係性がはっきりしない序盤は、奇妙な怪しさに満ちている。

バベルの中で上階を目指し続ける九朔。その理由はカラス女や謎の少女に言われてというのがある。が、上には九朔の祖父でありバベルを作った大九朔がいるらしい。カラス女が説明する説には、大九朔がなにやら怪しげなことをしていそうだということ。

そして大九朔と出会うと、九朔は夢がかない、晴れて小説家としてデビューし、人気者となりサイン会を開いている幻想を見る。幻想の中で生き続けることも可能だが、辛い現実に戻ることもできる。はたして久朔はどちらを選択するのか…。

夢ばかりを追い続け、現実を見ずに夢の中で生活するのか。それとも、辛くとも現実を受けとめ生活していくのか。まるで小説家を夢見る者たちの目を覚まさせるためのような作品だ。もしかしたら、作者自身の思いもあるのかもしれない。

九朔はとりあえずビルの管理人という楽な仕事がある。世間の小説家志望者がどのような仕事をしているのか。大九朔が作り上げた幻想の世界にとどまることを良しとしない結論となっている本作。やはり作者としても、現実を見ろとアドバイスしているのだろう。

巨大な塔がしょうもない夢によって作られているというのが面白い。



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