明日の子供たち 有川浩


 2015.2.14      養護施設の子供たちは、かわいそうではない 【明日の子供たち】

                     
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■ヒトコト感想

児童養護施設をテーマにした作品。新任職員として登場する慎平の思いは、そのまま一般人の思いとなるのだろう。養護施設で生活する子供たちをかわいそうと思うこと。同情心からちょっとした優しさをみせてしまうこと。それら一時的なものは必要ないらしい。養護施設にいるからといって、必ずしもかわいそうというわけではない。そんな目で見ないでほしい。と子供たちは思うようだ。

かなり衝撃というか、養護施設にいることがかわいそうではない、というイメージはない。どこか、障碍者に対する思いと近いのかもしれない。健常者と同じように扱う。普通の家庭の子供と同じように扱う。そんな気持ちが作品からにじみ出ている。

■ストーリー

三田村慎平・やる気は人一倍の新任職員。和泉和恵・愛想はないが涙もろい3年目。猪俣吉行・理論派の熱血ベテラン。谷村奏子・聞き分けのよい“問題のない子供”16歳。平田久志・大人より大人びている17歳。想いがつらなり響く時、昨日と違う明日が待っている!児童養護施設を舞台に繰り広げられるドラマティック長篇。

■感想
児童養護施設に一般の人はどんなイメージをもつのだろうか。自分はよくわからないというのが正直なところだ。養護施設で生活する子供たちがどんな心境でいるのか。同級生たちにカミングアウトしている子供もいれば、隠す子供もいる。

職員にしても、進学を勧める職員もいれば、就職を勧める職員もいる。何が正解かわからないが、いろいろな思いがあるのは確かだ。本作では、様々なパターンの子供たちを通して、養護施設の実情や問題点が描かれている。

印象的なのは、養護施設で生活する子供たちの経済状況についてだ。綿密な取材に基づいて描かれているのだろうが、年間の被服費が3万円というのは強烈だ。消耗品や冬物を買うと、まったく十分ではないだろう。思春期の子供としては、他の子と明確な差があるのは辛い。

そのあたりでも、一般的にかわいそうと思われるのだが、子供たちはそれを嫌がるようだ。作者のキャラクターにありがちなパターンだが、かなり辛辣な意見だ。子供たちに対しても、理解のない大人たちに対しても、非常に耳が痛くなるような言葉がつづられている。

養護施設を卒業したあとの状況についても語られている。いわば、実家がない状態の子供たちは、社会へ出た後、何か困ったことがあった時に頼る場所がないらしい。普通の人ならば持っている何かしらバリア的なものがないのは辛い。本作はそのあたりの主張もある。

養護施設の厳しい状況や、子供たちの願いなど、本作を読まないと気づくことのない世界がここにはある。衝撃的なのは、老人や障碍者など選挙権を持つ人と、持たない子供たちでは、政治の取り組む熱量が違うということだ。政治家も自分の票になりそうなことから優先するのは当然だろう。

作者は、時に誰もが見逃すような、痛いところを突いてくることがある。



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