2016.10.23 ダメ学生に惹かれるあたし 【あおい】
■ヒトコト感想
スナック勤務の「あたし」とダメ学生の風間くんの恋愛物語。基本的には「あたし」が風間くんにぞっこんで、風間くんはどこか自由人な雰囲気がある。出会いからして親友の好きな人ということで紹介されたにもかかわらず、そのまま「あたし」と風間くんが付き合ってしまう。髪の毛は自分で切り、本能のおもむくままに行動する。
見た目が良いため母性本能をくすぐるのかモテるのかもしれない。ただ、付き合う女性が苦労する類の男であることは間違いない。あたしが実はものすごくディープな少女時代を過ごし、そのことをどこか心の奥底にしまいこんでいるパターンだ。ちょっと変わった「あたし」ではあるのだが、風間くんとのほのぼのとした関係は、壊れないことを願いながら読んでしまった。
■ストーリー
26才スナック勤務の「あたし」と、おなかに「俺の国」地図を彫っている4才年下のダメ系学生風間くんと、ペット亀の「バタ」のほわほわ脱力気味の同棲生活から一転、あたしはリセットボタンを押すように、気がつけばひとり深夜長野の森にいた。
人っ子一人いない、真っ暗闇の世界のなかで、自分のちっぽけな存在を消そうと幽体離脱を試みたり、すべてと対峙するかのように大の字になって寝っころんだりしていたあたしの目に、ふと飛び込んできたうす青色の野生の花。その瞬間、彼女のなかでなにかが氷解した――。
■感想
スナック勤務の「あたし」は、年下の風間くんと同棲している。ダメ学生の風間くんは俗にいう自由人だ。あたしと風間くんのほのぼのとした関係は読んでいて楽しくなる。が、あたしの風間くんに対する恋の熱量に比べて、風間くんの熱量は伝わってこない。
というか、自分で髪の毛を切りフラフラ自由な暮らしをする風間くんには、何に対してもそこまで熱量を示すことはないのだろう。あたしの知らない風間くん。学校の女友達とのメールを覗き見るあたしの気持ちを思うと、なんだか辛くなる。
あたしの感覚は、もしかしたらヒモを世話する女性のような感じかもしれない。風間くんのダメさ具合も見た目が良ければ、自由気ままでよくわからない言葉の数々も、なんだかおしゃれで洗練されたように思えてくるから不思議だ。
あたしの物語としては、あたしが悲観的になるのではなく、常に前向きなのが良い。強烈なインパクトはないのだが、いずれ離れていくであろう風間くんと、その時あたしがどのようになるのかを考えると不安でならない。女性が読んだらまた違った感想をもつのかもしれない。
本作では表題作以外にサムの葬式にまつわる短編がある。友達が集まりサムの葬式に参加する。そこでサムの思い出話を語るのだが。いかにもおしゃれで自由な友達関係だと思えてくる。サムがなぜか兄のあだ名である「サム」で自分を呼ばせようとしたのか。
葬式にも関わらず、とりあえず黒色をそろえただけでラフな格好で参加する若者たち。若者ならではの自由さというか、気ままな感じが良い。友達がダンプにはねられ死に、その葬式に参加する。若者たちそれぞれのキャラクターがはっきりと映像として浮かび上がってきた。
なぜか明るい気分になれる短編だ。
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