アントキノイノチ


 2015.5.19      強烈な現代のイジメ 【アントキノイノチ】

                     


■ヒトコト感想

タイトルから想像する内容とは大きくかけ離れたシリアスな作品だ。主人公の杏平が吃音もちで、現代風なイジメに悩んでいる。今のイジメは、昔のようにあからさまに暴力をふるったり、無視するようなものではない。友達のフリをしてはいるが、陰湿に相手を追い落としたり、ネットに悪口を書くというパターンだ。周りからは友達と思われてはいるが、実は目に見えないイジメが繰り返されている。

この感覚は昔ではありえないパターンだ。心にトラウマをもつ杏平が遺品整理業の現場で働き、そこで人の死と向き合い、同僚のゆきと出会い変わっていく物語だ。共感するのは難しいだろう。杏平とゆきの心は病んでいる。遺品整理の仕事も決して楽しいものではない。終始暗い印象の作品だ。

■ストーリー

高校時代に友人を“殺した"ことがきっかけで、心を閉ざしてしまった永島杏平。3年後、父の紹介で遺品整理業の現場で働き始めた杏平は、久保田ゆきと出逢う。命が失われた場所で共に過ごす中で、次第に心を通わせてゆく2人。そんなある日、ゆきは衝撃的な過去を杏平に告げる。そして、杏平の前から姿を消してしまう-。

■感想
まず主役の杏平は、見た目は今風だが、陰湿なイジメにより心が病んでしまう。心を閉ざした原因が高校時代の友人を”殺した”ことにあるらしい。観衆はどのように”殺した”のかが気になり、物語がすすむにつれて、少しづつ明らかとなる。

イジメのターゲットとなっていた友人が、イジメの主犯格に反撃するシーンは強烈だ。特に自殺するシーンでは、校舎から飛び降りるシーンがワンカットで描かれているので、映像の仕掛けとはわかっていても、地面にぶつかった瞬間、勢いであおむけになるのは衝撃的だ。

杏平が遺品整理の仕事を始め、そこで様々な経験をする。決して明るく楽しいものではない。遺品整理業者に依頼するのは、何かしら死者と家族の間に溝がある家庭ばかりだ。高齢者の孤独死により、死体が放置された部屋での遺品整理。心を閉ざした杏平が選ぶ仕事にしてはかなりハードルが高い。

同僚のゆきにしても心に傷を負っている。心が病んだ者同士が、お互いの傷をなめ合うように距離を近づけていく。どこかで明るい未来が描かれるのかと思いきや、終始暗く悲しい物語となっている。

遺品を整理される側の遺族は、おしなべて血も涙もない者のように思えてくる。杏平が遺族に対して頼まれてもいないのに、遺品を返そうとする。物語的には、死者の思いを家族に伝えるという大きな意義があるのだろうが、冷静に考えると非常に迷惑な話だ。

死者と遺族の間に生前どんな関係があったのか知らずに、おせっかいに死者の思いを遺族に届けようとする。余計なお世話以外の何物でもないのだが、それをさも良いことのように描かれるのはかなり強烈かもしれない。

想像以上にシリアスで重い物語だ。



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