あん


 2017.6.25      ハンセン病患者への差別 【あん】

                     
あん DVD スタンダード・エディション [ 樹木希林 ]
評価:3

■ヒトコト感想
なんの予備知識なく本作を見た。序盤ではどら焼き屋の「どら春」を舞台にした千太郎の物語かと思っていた。それが、徳江が登場し、美味しいあんを作り始めてから物語は動き出す。ハンセン病患者を扱った作品とは思わなかった。らい病と呼ばれ、差別の対象となる。サナトリウムで隔離され生活してきた人々にとって、仕事をするということがどれだけ生きがいになるかが描かれている。

正直、自分はハンセン病についてほとんど知らなかった。差別する方が悪なのは間違いないのだが、一概にそれを否定することはできない。飲食業の店員が病気をもっているとなると、できれば避けたくなるのは当然だろう。誰も責めることはできないが、非常に印象深い作品だ。

■ストーリー
縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎(永瀬正敏)。そのお店の常連である中学生のワカナ(内田伽羅)。ある日、その店の求人募集の貼り紙をみて、そこで働くことを懇願する一人の老女、徳江(樹木希林)が現れ、どらやきの粒あん作りを任せることに。徳江の作った粒あんはあまりに美味しく、みるみるうちに店は繁盛。しかし心ない噂が、彼らの運命を大きく変えていく…

■感想
どら焼き屋で雇われ店長をやっている千太郎。独り者で淡々とどら焼きを焼く日々を過ごす男。決して流行っているとはいえないどら焼き屋だが、学生たちが頻繁にやってくる店。千太郎の寡黙な雰囲気と、ただのどら焼きが、一日何個売れるのか気になってしまう。

そんなどら春にふらりと老女の徳江がやってくる。そこでバイトをやらせてほしいと言う徳江。千太郎と徳江のやりとりが良い。徳江のあんの作り方を真似て作ると、極上のあんができる。このあんのおかげでどら春は大繁盛することになる。

登場人物たちには明るく楽しい雰囲気がない。千太郎は孤独でうらぶれた生活をしている。お客としてやってくる中学生のワカナは家庭環境が複雑で悩んでいる。徳江はハンセン病患者として生きがいを探している。

そんな暗い雰囲気の中で、徳江のあんによりどら春が繁盛する場面は、唯一といっていいほどの明るい場面だ。次々と売れていくどら焼き。必死で皮を焼く千太郎。徳江は顔をださず、忙しく働く千太郎を見守っている。この場面だけが、千太郎を活気ある表情にしている。

正直、ハンセン病についてはほとんど知らなかった。今現在どの程度患者がいるかわからないが、差別があることは衝撃だ。隔離施設で生活し仕事をしたいと考える患者たち。ただ、客側の立場からすると、ハンセン病患者が店先に立つどら焼き屋のどら焼きをあえて買いたいとは思わないのは当然だろう。

この差別を全面的に悪と決め付けるのは簡単だが、人の心として避けたくなるのは当然のことのような気がした。徳江も裏方に徹していれば、結末は違ったかもしれない。

伝染しないとわかっていても、避けたくなるのが人間の本心なのだろう。



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