アイネクライネナハトムジーク 伊坂幸太郎


 2015.8.27      心がほっこりする連作短編集 【アイネクライネナハトムジーク】

                     
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■ヒトコト感想

登場人物に繋がりがある連作短編集。心がほっこりするような恋愛作品もあれば、なんだかよくわからない展開の作品もある。奥さんに愛想つかされたサラリーマンや、日本人初のヘビー級世界チャンピオンとなったボクサー。元いじめっ子に復讐するOLなど。いつもの作者のキャラクターと同様に、どこか言葉遊びをするようにひねくれた雰囲気がある。

他人から激しいクレームを受けた場合に、「この人が誰の御嬢さんか知っているのか?」と相手を心配した上でのアドバイスを送りつつ、相手を脅す。このパターンが定番として登場し、恋愛模様へとつながっていく。サプライズあり、ニヤリと顔が緩んでしまう短編あり。作者らしい作品だ。

■ストーリー

ここにヒーローはいない。さあ、君の出番だ。奥さんに愛想を尽かされたサラリーマン、他力本願で恋をしようとする青年、元いじめっこへの復讐を企てるOL……。情けないけど、愛おしい。そんな登場人物たちが紡ぎ出す、数々のサプライズ! !

■感想
ごく普通の人々がおりなす物語。普通ではあるが、どこか普通ではない考え方を持っている。偶然の出会いから結婚した男女。そこには、偶然を装いつつも、実は仕組まれていただとか、短編として起承転結が出来上がっている。

出会いがないと嘆く男が、仕事のトラブルから、偶然出会いを見つけてしまう。なんてことない会話の端々に、伏線が張られている。ラストにその出会いがうまくいきそうな雰囲気のまま終わっているのが良い。

様々な短編に登場してくる織田一真が良い。適当な性格で独自の考え方を持っている。時に非常識な言動をするが、真実を表現している場合もある。一真の奥さんである織田由美が良くできた妻であり、一真をいさめながらも、的確な言葉を放つ。

適当な一真と美人な由美。この夫婦のゆるい考えの中で、人を勇気づけるような言葉や行動を示すところにしびれてしまう。夫婦の娘が別の短編で主人公となり、重要な役目を担う。当然、定番の「この人を誰の御嬢さんと思っているのか?」が登場するのが良い。

「ライトヘビー」はニヤニヤしてしまう。美容師の美奈子が常連客の弟と電話だけで話をすることになるのだが…。電話で会話をし、相手の姿を見たことがないまま、恋愛感情へと発展しかけたところ、相手からある提案がなされる。

それが、ヘビー級の世界タイトルマッチで日本人が勝ったら付き合ってくれというものだった。かなりいい加減な約束だと思いつつ、ラストの流れに衝撃を受ける。思わずニヤニヤしてしまう展開は、まさに作者の真骨頂だろう。

連作短編集なだけに、続けて読むことに意味があるのだろう。



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