Nのために 湊かなえ


 2015.2.15      強烈な生い立ち 【Nのために】

                     
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■ヒトコト感想

本作を読む前にドラバを見てしまったので、登場人物をついドラマの配役で想像してしまう。概ねドラマと同じ雰囲気だが、ドラマは苦労して引き延ばした感がある。本作では西崎のイメージがドラマとかなり違う。美しい文学青年。ドラマでは一切そのあたりの描写がなかったので、原作との大きな違いということなのだろう。

冒頭に事件が起こり、そこに行きつくまでに何があったかを、過去をさかのぼりながら描写していく。もし、オチを知らない状態で読んだとしたら、ドキドキしたことだろう。ただ、オチの流れはやはり少しがっかりしたかもしれない。杉下、安藤、西崎という主要キャラはキャラ立ちしているが、ラストの流れに違和感を覚えてしまった。

■ストーリー

超高層マンション「スカイローズガーデン」の一室で、そこに住む野口夫妻の変死体が発見された。現場に居合わせたのは、20代の4人の男女。それぞれの証言は驚くべき真実を明らかにしていく。なぜ夫妻は死んだのか?それぞれが想いを寄せるNとは誰なのか?切なさに満ちた、著者初の純愛ミステリー。

■感想
殺人事件が起こり、そこに居合わせた者たちの過去と現在が語られている。本作の主役である杉下の過去が一番興味を惹かれてしまう。特に島で父親が女を連れ込み、追い出されるあたりは強烈だ。金銭感覚が崩壊した母親と食べ盛りの弟を抱えて、高校生の杉下が生活を切り盛りする。

屈辱的な経験をしつつも、自立しようとする。家族を捨てた父親よりも、いつまでも金持ち気分でいる母親に怒りを覚えた。子供に依存する典型的なダメな母親だが、必死で生活を立て直そうとする杉下が、けなげでかわいそうになってくる。

安藤の物語は想像よりもシンプルだ。それは成瀬の物語にも言える。過去のしがらみらしいことは多少描かれてはいる。が、未来に向かって突き進む男たちについては、特別な印象をもつことはない。事件にしても、杉下と西崎がメインのため、添え物のような形だ。

安藤の強烈なまでの出世欲はインパクトがある。本作のポイントとしては、それぞれが思いを寄せるNという人物がいる。成瀬は杉下。安藤も杉下ということなのだろうが、三角関係的な流れはいっさいない。

西崎のキャラクターは強烈だ。美しい文学青年として、期待を裏切らない行動をとってくれる。殺人事件の犯人として描かれてはいるが、真実は別にあるというオチだ。純愛ものという触れ込みもあるが、どうもそうは思えない。

ミステリーとしても、そこまでミステリアスではない。ただ、杉下と西崎の過去には壮絶なドラマがある。過去があるからこそ、現在へとつながっているのだろう。ドラマ版を見た時から感じていたことだが、幸せなラストではない。なんだか、悲しくなるような余韻がある。

ドラマと比較するとかなり駆け足のように感じるが、これくらいが良い。



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