家守 


 2014.7.24     独白形式は恐ろしい 【家守】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

奇妙な物語の短編集。ミステリー的なトリックはそれなりに不思議で驚きはある。が、本作のポイントは間違いなく、全体を覆う不思議な怖さだ。なんてことない現代の物語であっても、どこか神秘的で超自然的な力が働いているように感じさせる。

表題作でもある「家守」などは、主婦の死体が密室で見つかったことに対するミステリー的な面白さもあるが、そこに至るまでの動機と、さらにその動機の元となる事件の奇妙さに引き付けられてしまう。主婦は立ち退き要請に対してかたくなに反対していた。それはなぜか?幼いころに行方不明になった妹の帰る場所を確保するためなのか。ある程度想像はできるのだが、独白形式は妙な恐ろしさがある。

■ストーリー

木造モルタル二階建て、築三十年は経とうかという何の変哲もない「家」。その家から主婦の死体が見つかった。死因は窒息死。帰宅した夫が発見したとき、家は完全に戸締まりされた密室状態だった。事故死の可能性が高まる中、刑事の執拗な捜査により、死体に秘められた、ある事件が浮かび上がる…。(表題作)「家」に篭もる人間の妄執を巧みな筆致で描く傑作推理全五編。

■感想
「人形師の家で」は、巧みなミスリードにより、読者を煙に巻いている。幼いころに怪しげな人形屋敷で遊ぶことを覚えた少年たち。そこでかくれんぼをしたのだが…。幼いころの記憶と、真実をさぐるため、大人になった少年が故郷に戻る。そこで行方不明となった少年の消息を知ることになる。いろいろな要素が詰まっている。

人形に命を吹き込もうとする男。過去の過ちを後悔する母親。自分の出生の秘密を疑う男。行方不明の少年のその後を想像する男。人形屋敷というだけで、怪しげな洋館をイメージしてしまう。洋館=悪魔的儀式という連想が、物語を恐ろしいものにしている。

「埴生の宿」は、何が真実かわからなくなる。ある男は高額なアルバイトを依頼される。それは、ある老人の前で息子のフリをするということだったのだが…。老人目線のパートと、男目線のパートがたくみに入り混じり、だんだんと真実が明らかになっていく。が、男にも知らされていないことがあった。

男の謎の絞殺死体が発見されることにより、物語は大きく変化する。老人の思い出を汚さないための芝居と、芝居を成功させるために暗躍する者たち。何も知らされていない男が一番貧乏くじを引いた形だ。

「転居先不明」は、面白さの要素が複数ある。まず、視線を感じる妻と、仕事に没頭する男の関係だ。誰かに見られていると訴える妻。気にしすぎだと言う夫。そこに何かしらの原因があるのは明らかで、その原因を、ある日夫が告げる。

住んでいる家が、実は連続殺人事件が起きた場所だと言う。普通ならば、それだけのはずが、この連続殺人事件についても細かく描写され、トリックもそれなりに練り込まれている。印象としては、連続殺人事件の内容の方が強いという、メインよりもサブイベントの方が目立ってしまう珍しい物語だ。

どれも、奇妙な読後感を残す短編集だ。



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