遠まわりする雛 


 2014.1.8    ちょっとした味付けがすばらしい 【遠まわりする雛】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

省エネをモットーとする折木が学園内で遭遇する様々な出来事に対応する。いつものシリーズとは異なり、短編それぞれが独立した内容となっている。日常のちょっとした謎。短編でサラリと描かれる謎は、より日常感が強い。特に学園以外での出来事というのは面白い。今までのシリーズは、学園内での出来事がメインのため、キャラクターたちの個性をよりリアルに感じることができるのは、日常を描いた短編であることは間違いない。

古典部というよりも、それぞれのキャラの特徴がよく出た短編ばかりだ。折木の省エネ具合が突出した短編もあれば、里志の複雑な心境が描かれた短編もある。キャラを認識する上では、これ以上ないほど濃密な短編集だ。

■ストーリー

省エネをモットーとする折木奉太郎は“古典部”部員・千反田えるの頼みで、地元の祭事「生き雛まつり」へ参加する。十二単をまとった「生き雛」が町を練り歩くという祭りだが、連絡の手違いで開催が危ぶまれる事態に。千反田の機転で祭事は無事に執り行われたが、その「手違い」が気になる彼女は奉太郎とともに真相を推理する―。あざやかな謎と春に揺れる心がまぶしい表題作ほか“古典部”を過ぎゆく1年を描いた全7編。

■感想
「あきましておめでとう」は、今の時期にふさわしく、正月の物語だ。神社の納屋で千反田と折木が閉じ込められ、どうやって周りに気づかれずに脱出するかという、スリルあふれるミステリーだ。大声を叫べば簡単に助けを呼べるが、それができない。では、どのようにして…。

他人に気づかれず知り合いにだけ通じるSOSをどのようにして発信するのか。ミステリーとしての面白さというより、別の短編でのちょっとした味付けがヒントとなり、SOSへつなげるというのがすばらしい。思わずニヤリとしてしまった。

「手作りチョコレート事件」は、里志のために摩耶花が作ったチョコレートが何者かに盗まれた。折木と千反田と里志は犯人を探すのだが…。特殊というかオタク気質というか、悩みに悩んだ高校生がやむなく選択した手段は非常に衝撃的だ。いつもどおり折木がすべてを見破るのだが、その過程がまたすばらしい。

伏線としてゲーセンで対戦するというのがあり、それがうまく活きている。日常の謎を描くうまさよりも、結論を読んで妙に納得してしまう説得力がすばらしい。ただ、現実に存在したら、嫌な奴だという印象しかないのは確かだ。

「遠まわりする雛」は、ひな祭りの準備で発生した不手際について、千反田と折木が推理する。これこそまさに日常の謎だ。誰に頼まれたわけでもなく、ただ、発生した状況で誰が何のためにと推理する。もし、同じことが日常に起こったとしても、ただの行き違いとして流してしまうことを、折木たちは深読みする。

推理の過程がすばらしく、祭りの準備で発生した不手際により、誰が得をしたかを考える。そこから、数珠つなぎに答えを導き出す。普通のことを特別にしてしまう構成のうまさが光る作品だ。

日常の謎の面白さがつまった短編集だ。



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