2013.12.5 小市民を目指すふたり 【秋季限定栗きんとん事件 下】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻の謎であった連続放火事件の犯人が下巻のポイントだ。エスカレートする瓜野のスクープ意識。小山内の怪しげな行動。すべてを見透かしたような小鳩の言動。三者三様、小山内と瓜野のカップルがうっすらと危機に直面し、小鳩とごく普通の女子高生である中丸のカップルもうまくいかない。
瓜野と小鳩のキャラがかぶる印象のあった上巻から変わらないのだが、本作では若干、瓜野の方が自己主張が強く、自己顕示欲も強いように思えた。いつものごとく、連続放火事件の犯人を推理する小鳩。そして、今回ばかりはないと思っていた小山内の復讐まである。小山内の復讐に対する思いを読んだ瞬間は”なぜ?”と思ったが、ラストに描かれたその理由を知ると、思わず顔がにやけてしまう。
■ストーリー
ぼくは思わず苦笑する。去年の夏休みに別れたというのに、何だかまた、小佐内さんと向き合っているような気がする。ぼくと小佐内さんの間にあるのが、極上の甘いものをのせた皿か、連続放火事件かという違いはあるけれど…ほんの少しずつ、しかし確実にエスカレートしてゆく連続放火事件に対し、ついに小鳩君は本格的に推理を巡らし始める。小鳩君と小佐内さんの再会はいつ―。
■感想
連続放火事件がエスカレートすればするほど、スクープを狙う瓜野は生き生きする。瓜野が独自の推理で導き出した法則が、あまりに限定的なので、瓜野自身が放火事件の犯人ではないかと深読みしてしまった。小鳩は小山内が犯人ではないかと疑い、小山内は怪しげな行動をとる。
小市民とは程遠い流れだ。そして、上巻からその雰囲気はあったが、瓜野が何者かにはめられている感が強い。それは連続放火事件の犯人に繋がることなのだが、結末を読むと瓜野があまりにもみじめすぎて悲しくなる。
小鳩は独自の推理と仕掛けにより連続放火犯をつきとめる。物語としては瓜野、小鳩共に小山内が連続放火事件の犯人ではないかと疑う流れになっているが、読者はそれらがすべて小山内の策略だと早い段階で気づくだろう。
過去作品では、復讐の狼となった小山内。本作でも、何かしら復讐的行動をとるのかと思いきや、はっきりと示していない。ラストに小山内が行った復讐について描かれているが、その理由を読むと、小山内がまだウブな女子高生だということを思い知らされた。なんともニヤけてしまう結末だ。
小鳩と小山内の関係は修復される。小市民を目指したふたりだが、結局は無理だという結論になる。ふたりは親密な関係ではあるが、シリーズ全体を通して男女の関係はプラトニックを貫いているようだ。なんだか、そのあたりがリアルさを感じさせない要因だが、逆に平和な雰囲気を感じさせる。
スイーツが大好きな小山内と、平凡な小鳩。表面上はまさに小市民だが、心の奥底に隠された狼の部分を鎮めることができない。小市民となるには、あまりに高い能力を持ちすぎたふたりの物語だ。
これでシリーズが終わってしまうのはもったいないような気がした。
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