正月十一日、鏡殺し 


 2014.9.13      悲惨すぎる結末 【正月十一日、鏡殺し】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

ミステリアスな短編集。短編の掲載順に大きな意味があるとは思えないが、後半の短編は陰惨な結末となっている。冒頭の「盗聴」や「逃亡者 大川内清秀」は、謎に比重がおかれており、謎や構成により読者を惹きつけるという感じだ。それが、後半の「プラットフォームのカオス」や表題作でもある「正月十一日、鏡殺し」はとてつもなく悲惨だ。

ただ、この流れは悪くない。入りは軽い感じで、後半に強烈なインパクトを残す作品が登場する。結局のところ、表題作の、悲惨で悲しい結末ばかりが強く印象に残っている。「猫部屋の亡者」のようにオチが簡単に予想できる作品もあるが、それはそれでオチまでの流れを楽しむことができる。

■ストーリー

彼女が勤めに出たのは、このままでは姑を殺してしまうと思ったからだった―。夫を亡くした妻が姑という「他人」に憎しみを募らせるさまを描く(表題作)。猫のように性悪な恋人のため、会社の金を使い込んだ青年。彼に降りかかった「呪い」とは(「猫部屋の亡者」)。全七編収録。

■感想
「盗聴」は、どこにでもいる浪人生が、軽い気持ちで電話の盗聴をしたところ、暗号のような会話を耳にする。「カチカチ鳥」が何を意味しているのか。ミステリー的な仕掛けはあるのだが、東京を舞台にした物語であり、ある程度土地勘がないと楽しめない。

謎の根本につながる部分は、東京の地理をわかっていないと理解できない。それでも、暗号を解明するくだりと、犯人が意外な人物であることは楽しめるだろう。携帯ではなく、家のコードレスフォンだとか、自動車電話がでてくるあたりは、時代を感じずにはいられない。

「逃亡者 大川内清秀」は、仕掛けが凝っている。日本で事件を起こしタイへ逃亡した男がいた。男は名前を変え、偽のパスポートで出国した。一方、大川内は突然謎の女に声を掛けられ、女の目的がわからないまま、仲よくなっていくのだが…。

最初に大川内名義の偽パスポートを手にしたくだりを描き、その後、大川内が経験した奇妙な女の話を続ける。偽パスポート作りが大川内の経験とリンクしているのが面白い。大川内に近づいた女の目的が不明なため、奇妙な印象が残るが、最後にはすっきりとした読後感を得ることができる。

「正月十一日、鏡殺し」は強烈だ。夫を亡くした妻が姑に憎しみを抱き、最後には凶行にでるのだが…。悲惨な物語だ。妻の憎しみがすさまじく、その怒りをぶつけられる姑の行動もまた強烈だ。家庭は崩壊し、救いようのない展開なのは間違いない。

それでも、娘だけはすくすくと育ち、誰もが可愛がる存在である。となると…。あまりに悲惨な展開なだけに悲しくなる。妻が持つ、いつか姑を殺してしまうかも、という怒りの気持ちがすべての凶行を招く。悲しすぎるラストの要因のひとつには、娘目線でのパートが存在するからだろう。

表題作のラストは悲しすぎる。



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